トランプ政権は、トルコの影響力の拡大を支えることを、ある種の対抗措置にしようとしているようだ。シリアでは、サウジアラビアの影響力が弱い。カショギ氏殺害事件で、サウジアラビアのムハンマド皇太子の権威も失墜している。これに対して、反アサド政権勢力の最後の砦となっているイドリブへの総攻撃を回避させたロシアとの合意でも、トルコはあらためて存在感を誇示したところだ。ISIS勢力の掃討を相当程度にトルコに任せる形で米軍の撤退を実現させようとするトランプ大統領の路線は、米軍撤退後のロシア、イラン、アサド政権への牽制でもある。

ただし米軍の撤退は、クルド人勢力が駆逐される懸念をかきたてている。アサド政権、イラン、そしてトルコは、クルド人勢力の駆逐という点で、利害関心を一致させる。クルド人勢力の地上部隊(People’s Protection Units:YPG)は、航空戦力中心の米軍のISIS掃討作戦において、不可欠の要素であった。クルド人勢力を排除する形で進むシリア戦争の収束は、アメリカの将来の介入の足掛かりの消滅を意味する。

クルド人勢力の問題は、イラクにおける米国の政策とも大きく関わる。1991年湾岸戦争で多国籍軍を主導して大勝利を収めたアメリカが、再びイラクを攻撃することになった背景には、クルド人勢力を見捨てたことへの道義的な負い目もあった。今後、クルド人勢力が迫害の憂き目にあうことがあれば、トランプ政権は苦しい立場に陥る。

結局、マティス路線とトランプ路線の違いは、外交政策の妥当性の判断の問題であり、どちらかが「狂気」で、どちらかが「良識」というほどのものではない。

タリバン伸長のアフガンでも兵力半減へ

トランプ政権発足後、アフガニスタンに駐留する米軍は増強された。現在の1万4000人という規模は、オバマ政権末期の公式の数字と比すると、倍増に近い数だ。現在、トランプ大統領は、これを半減させる計画を持っているという。これは、いわばマティス長官の路線で増強したアフガニスタンの米軍の規模を、それ以前の規模に戻そうとするものだ。

アフガニスタンではタリバン勢力が伸長し、カブールのガニ政権は追い込まれている。和平合意の機運が高まっていると宣伝している向きもあるが、現実的な見込みはない。勢力を拡大させ続けているタリバンの側に、和平合意に応じる動機付けは乏しい。タリバンが関心を持つ要素があるとすれば、外国軍の完全撤退をガニ政権側が受け入れることだろうが、それは政権側にとって自殺行為に等しい。