「司法取引」に応じた日産幹部の責任はどうなるのか
有価証券報告書の虚偽記載については前述したが、東京地検の捜査で気になることがもうひとつある。それは捜査に協力する見返りに刑事処分を軽くする司法取引制度の適用だ。
司法取引は今年5月に成立した刑事司法改革関連法に盛り込まれた制度で、翌6月から運用が始まった。末端の実行行為者らの協力によって組織上層部の犯罪を裁くのが大きな狙いだ。
今回のゴーン会長の捜査が2度目の制度適用で、前回の「三菱日立パワーシステムズ」(MHPS)と司法取引した捜査は結果的に同社が法人としての起訴を逃れ、評価は芳しくなかった。ゴーン会長の捜査ではトップの逮捕が実現し、検察は「国民の理解が得られるはず」と期待している。
東京地検特捜部は捜査の段階で有価証券取引書の虚偽記載に関与した役員らと司法取引で合意し、情報を得る見返りに執行役員らの刑事処分を軽くする。
しかし制度スタート前から指摘された問題が解決されたわけではない。自分が助かりたいためにうそをつく協力者も出てくるだろうし、制度に頼ってばかりでは肝心の検事の捜査能力が弱る危険性もある。虚偽記載に関与しながら、その罪を逃れるのから釈然としないところがある。
それゆえ捜査当局は十分な配慮のもとで制度を運用し、捜査の結果を私たち国民に説明してほしい。
虚偽記載は「高額報酬への批判」をかわすためだったのか
それにしてもゴーン会長はなぜ、5年間で約100億円という役員報酬を半分の約50億円と偽ったのだろうか。
ゴーン会長の役員報酬は、日本の上場企業の中でもトップクラスだ。最近では社長兼最高経営者(CEO)を退いたものの、新たに三菱自動車の役員報酬やフランスのルノーからの報酬も加わった。こうした高額な報酬に対し、株主らから「高すぎる」との批判の声が度々上がっていた。だが、うその記載はこうした批判をかわすためだったのだろうか。
日産をV字回復させるために5つの工場を次々と閉鎖し、2万人もの社員の首を切った。その成果が認められ、「カリスマ経営者」と呼ばれるまでになった。
そんなゴーン会長は100億円という超大金をどう使ったのか。庶民感覚からすると、想像を絶する“カネの亡者”としか言いようがない。
自分が首にした社員のことを考えたことはあるのだろうか。今回のゴーン会長の逮捕を知って、怒りを爆発させている人もいるだろう。