そして、ビールはどんどんぬるくなっていく
途端に手持ち無沙汰になる女。ビールは受け取ってから12分もたってしまったため、若干ぬるくなっている。とりあえずビールを一口飲み、ハンバーガーには手をつけないようにする。男からは「あと15分ぐらいかな……」という連絡が来た。さすがにポテトくらいはいいかな、と手をつける。しかしながら、気になるのはおいしそうなハンバーガーと32度の暑さのなか、どんどんぬるくなっていくビールである。
いざとなればビールは少しすいている店で買えばいいや、と女はビールを遠慮なく飲むことにした。しかし、彼はまだ来ない。「15分たったけど、まだ?」とLINEを送ると「あと15分ぐらい……」と返事が来た。すでに、周囲には「あいつ、一人で4人掛けの席を独占しやがって……」という怨嗟の目で見る人々が何人も登場している。さらに15分待ったところで、女は「もぉぉぉ……、なんで早く来ないのよ!」と男のことを心のなかでののしる。そして「一口くらい、いいよね」とついにハンバーガーにかぶりつくのだった。
「食べる前に、ちゃんと写真撮った?」
それから10分後、ようやく男が戻ってくる。フェスの目玉のひとつ・神戸ビーフの名店は大行列で、男は1時間40分も並び、ようやくステーキを2枚入手して、女のもとに現れた。「ごめんごめん! 遅くなった!」と男は満面の笑み。しかし、彼の顔はすぐに曇る。
男:ビール、二杯ともほぼ空じゃん。あと、なんでポテトもこんなに減っているの? あー! アボカドスパイシーバーガーがこんなに小さくなってる!!
女:ごめん! 一人で待っているのがいたたまれなかったし、ビールがどんどんぬるくなってきたから飲んじゃったの。あと、おつまみとしてポテトだけじゃなんか物足りなくて、ハンバーガーも少し食べちゃった。
男:えっ、食べる前にちゃんとアボカドバーガーの写真は撮った?
女:いや、撮ってないけど。私、食べものの写真とか撮る習慣ないから……。
男:マジかよ! オレ、この神戸ビーフのステーキと2種類のハンバーガーを並べた写真を撮って、フェイスブックに投稿しようと思っていたのに! なにやってんだよ!
この瞬間、女は心のなかで「この男とは別れよう」と決意したのであった。女が確信したのは「行列好きの人間とは、どう頑張っても価値観が合わない」ということである。