「イートイン」を確認する手間は増えるが……
軽減税率の導入は、消費税率引き上げの影響を緩和するための妥協案だ。メリットが期待される反面、デメリットもある。
軽減税率の導入は、小売や外食産業など企業の手間・負担が増えることにもつながる。その点で、政府は軽減税率の導入の重要性と、必要な取り組みに関して企業と消費者の納得感を取り付けていく必要がある。
具体的に、企業は軽減税率に対応するために受発注システムなどの買い替えや設定の変更を行わなければならない。仕入れの際の請求書にも、どの商品が軽減税率の対象であるかを記す必要がある。税額計算の手間も増える。
加えて、飲食業界などではイートインかテイクアウトかを客に確認しなければならない。レジ前に列ができている場合、持ち帰りか否かを聞く分、支払いにかかる時間は長くなる。その状況に不満を感じる人は増えるだろう。そうした状況にも企業は対応していかなければならない。中小企業の多くが軽減税率導入への準備に取り掛かかれていないことも報じられている。
重要なのは国民のコンセンサスを得ること
政府は、軽減税率のメリットをわかりやすく国民に伝えると同時に、企業の取り組みをサポートする体制を強化しつつ、具体的な事例などを紹介していく必要がある。キャッシュレス決済を用いることで、レジ業務の負担を軽減することも考えられる。それを実現するためには、セキュリティ面を強化しつつQRコード決済など、比較的導入コストの低いテクノロジーを用いていくことも重要だ。
軽減税率の導入は、わが国の経理関連の効率化を促進し、新しい決済制度を整備するチャンスにもなりうる。いずれにしても、政府は軽減税率導入に関する企業・消費者の不満や不安の一部を解消するために、消費税率引き上げに対する国民のコンセンサスを高めることが重要だ。
法政大学大学院 教授
1953年、神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。