「課税事業者にならなければ10%分を差し引きます」

今年のはじめ、ある出版社から次のような文書を受け取った。

<(2023年10月1日からの)インボイス制度導入後は、「適格請求書発行事業者」様との取引でなければ仕入れ税額控除ができなくなりますので、【支払額等につきまして今後ご相談】をさせていただきます>

インボイスとは商品やサービスの売り手が発行する「適格請求書」のこと。インボイスを発行するには制度に登録し、消費税を納める課税事業者になる必要がある。

これを踏まえて出版社からの文書を読み解くと、「あなたが課税事業者になって消費税を納めなければ、私たち(出版社)は規定の原稿料から10%を差し引きますよ」ということだ。私がすべての取引先の出版社からこのような措置を受けた場合、年間80万円以上の収入減になる。

インボイス制度について、特に会社員の人は「無関係だから、よくわからない」と思われるかもしれない。けれども、最終的には物価の上昇を招く恐れがあり、日本の産業を破壊するという点で無関係の人はいない。

筆者宛に出版社から送られてきた「支払額等につきまして今後ご相談」という文書
撮影=笹井恵里子
筆者宛に出版社から送られてきた「支払額等につきまして今後ご相談」という文書

この制度がどれだけ国を貧しくするか

一言でいうなら、インボイス制度は「稼げる者しか生き残れない世界」をもたらすものだ。各業界の主役だけが存在し、脇役が消えていくようなものだと思う。飲食業界であれば、大規模チェーン店は生き残り、路地裏にあるような個人店はつぶれるかもしれない。出版業界であれば、大物作家は生き残れるが、私のようなフリーランスは続けられないかもしれない。

皆で同じようなタッチのものを見聞きして、同じような味を食べることが豊かな世界だろうか。大して売れないけどニッチな映画や作家が存在できる、独特の味を展開する店がある、そういう世界のほうが楽しい。

インボイス制度はフリーランスのほか、小売店や個人タクシーなどさまざまな業種の個人事業主に関係するが、この記事ではフリーの執筆業という自身が置かれている状況をまじえて書く。それによりこの制度がどれだけ国を貧しくするか、知ってほしいと思う。