大企業には甘く、フリーランスには厳しい課税

社会保障の制度に詳しい佛教大学社会福祉学部准教授の長友薫輝氏もこう憤る。

「インボイス制度は、本来税負担が難しい人たちからも、根こそぎもぎ取ろうという悪どい仕組みだと思います。芸術文化の担い手の方々や地域経済を支えている小規模事業者には徴収が厳しく、一方で大企業に有利な法人税上の措置はたくさんある。富を手にしている人がますます豊かになり、大多数の庶民はどんどん厳しくなる状況です。インボイスはそれを加速させる制度ですね」

先日、『週刊新潮』(2023年4月6日号)では「『大増税ニッポン』の税金は不公平」という巻頭特集が組まれていた。そこで「不公平な税制をただす会」共同代表の税理士、浦野広明氏が優遇税制により大企業がどれだけ減税されているかを試算している。同記事で浦野氏は<20年度の法人税の優遇措置で約5兆2000億円、租税特別措置(税金の軽減で大企業への適用が多い)で約1兆1000億円、計約6兆3000億円となりました>と述べている。

対して、財務省はインボイスの導入により「最大で2000億円程度の増収になる可能性がある」と試算している。大企業への優遇措置で減税額が「6兆3000億円」、かたや私を含め支払い能力の低いフリーランスの消費税をかき集めて「2000億円」なのだ。改めてその差に驚くとともに、週刊新潮の記事ではないが、これで「公平な課税」といえるのだろうか。

「しかもその2000億円の徴収も、1~2年くらいでしょう」と咲野氏。

免税事業者との間で取引すると負担が増えてしまう

「税率が上がれば廃業者・失業者が確実に増えます。廃業者・失業者が増えれば税収も減るわけですから、最終的には税収増の制度ではなくなるのです。VOICTIONの活動を通して、これまで知らなかった、さまざまな業界の人の話を聞きました。例えば漫画家さん。漫画を書くためにアシスタントを雇っている方の場合、アシスタントの消費税を負担しなければいけなくなるので事業継続ができなくなるのです」

今後は商品の流通過程に「免税事業者」がいれば、次にその商品を請け負う人の税負担が増してしまう。

例えば出版社が、二つの特集企画を10万円(+税)で2人のフリーランスにそれぞれ取材執筆を依頼したとする。

出版社依頼「特集企画の取材執筆・10万円+1万円=11万円(税込)」→A執筆者(課税事業者)
出版社依頼「特集企画の取材執筆・10万円+1万円=11万円(税込)」→B執筆者(免税事業者)

出版社は、これまでAさんにお願いしても、Bさんにお願いしても、売り上げにかかる消費税から仕入れ税額(この場合では1万円)を控除できた。それがインボイス導入以降は、課税事業者であるAさんの分しか控除ができない。となると、出版社が執筆者に「これまでと同じ原稿料と消費税」を支払っても、免税事業者との間で取引すると、出版社側の負担が増えてしまうのだ。

上記の例では1万円なのでそれほど負担感がないかもしれない。しかし、100万円の取引になれば、B執筆者との間では消費税が控除されないのだから、出版社は実質10万円も余分に支払っていることになる。私も年間にして100万円以上の取引をしている会社が複数あるので、取引先の負担を考えると「知らん顔」というわけにはいかない。