消費者心理の悪化を緩和するために重要
あるいは、財政政策の側面から低所得者層に現金などを支給することも考えられる。その場合の問題は、個人の資産状況などを正確に把握しなければならないことだ。それを正確に実行することはかなり難しい。給付を受ける基準も不満の原因になりやすい。
それに比べると、酒類と外食を除く飲食料品というように、品目を定めて軽減税率を導入した方が社会全体の納得感を得やすいというのが政府の考え方だ。反対に、軽減税率を導入しないまま消費税率を引き上げると、税負担の増加を感じる人は増えるだろう。消費税率引き上げのタイミングでわが国の景気状況がどのようになっているかも見通しづらい。前もって軽減税率の導入に向けた準備を進めることは、消費税率引き上げによる消費者心理の悪化を緩和するために重要だ。
自宅で食事をする人は軽減税率の恩恵を受けられる
重要なのは、軽減税率の導入に正当性があるかだ。つまり、軽減税率が本当に低所得者の負担感の軽減につながるかを考えなければならない。
飲食料品に関する軽減税率に焦点を当てると、生鮮食品の購入に加え、テイクアウト商品も対象に含まれている。すし屋のお土産や蕎麦屋の出前、コンビニ弁当も軽減税率の対象だ。
一方、酒類に加えて、外食やケータリングサービスは軽減税率の対象ではない。コンビニエンスストア内での飲食=イートインも軽減税率の対象外だ。
この切り分け方がポイントだ。消費者には軽減税率を受けるか否か、選択する余地が与えられる。自宅で食事をするのであれば、軽減税率のベネフィットを享受できる。反対に、飲食店内あるいはイートインコーナーで食事をする場合は、10%の消費税を支払う。同様の仕組みは海外でも実施されている。フランスでは、消費税率(付加価値税)が20%であるのに対し、外食には10%、食料品には5.5%の軽減税率が設定されている(2018年1月時点)。
「ぜいたく」をするゆとりのある人から10%を徴収する
この仕組みは、人々の心理をうまくついているといえる。たとえば、所得が高い人が週末に外食をするとしよう。その人にとって、税の負担感はあまり大きくないはずだ。消費税率が高くなったとしても、高所得者の消費行動が大きく変わるとは考えづらい。その人は支払う消費税の額が増えたとしても外食に出かけるだろう。
一方、所得水準が低い人の場合、税負担の増加を抑えたいとの考えは強くなりやすい。その場合、外食は我慢してテイクアウトを利用することで、消費税の支払額を少なくすることができる。
見方を変えると、政府が目指している軽減税率は、個人の担税力(税金を支払う能力)に着目し、ぜいたくをするゆとりのある人からは10%の消費税を徴収することを目指している。このように考えると、さまざまな報道で指摘されているほど軽減税率の導入がおかしいとは言えない。軽減税率の導入にはそれなりの正当性がある。税の負担を抑えたい人にとって、選択の余地があるか否かの違いは大きいだろう。