「都市下層民」への福祉が始まったのは1972年から
一方で農村から都市部に大量に流れ込む単純労働者の増加に対し、都市インフラは追いつかず、大都市部の下町などには不良住宅地域が形成され、それらの「都市下層民」は当時躍進しつつあった公明党や共産党などに政治的には吸収されていった。
政局は、親米反共を標榜する岸内閣(1957~60年)による安保問題、保革の衝突が激化し(60年安保)、安保延長と引き換えに岸内閣は総辞職するという急展開をみせる。
このようなカオス的世相にあって、元来日本に確たる財産を持たない在日コリアンが都市の中で貧困に陥ったことは当然であり、政府は人道上の措置として在日コリアンを含む外国人に対しても生活保護を受給させた。
が、真の意味で「都市下層民」への福祉が実施されるのは1972年、田中角栄内閣における「福祉元年」以降を待たねばならず、これらの措置は「行き詰まった日韓交渉を進展させるために利用されたもの」とは何の関係もない。片山はこのような日本昭和史における基礎的な事実の把握と、素養がないように思えるのは私だけだろうか。片山理論はその後も、ネット論壇に影響を与え続けている(※2)。
※2:片山理論をトレースする政治家/「次世代の党」も片山理論を採用した党である。「日本の生活保護なのに 日本国民なぜ少ない 僕らの税金つかうのに 外国人なぜ8倍」(旧・次世代の党製作“タブーブタのウタ”より)。このネットプロパガンダCMでは、外国人を在日コリアンと明示することはしないまでも、次世代の党が公式に後日、「在日コリアンの受給世帯の割合と日本人の保護人員を比べたもの」と釈明したことからも明瞭なように、「片山理論」そのままに、「外国人=在日コリアン」と読み替えているものだ。そしてその「外国人=在日コリアン=8倍」という数字の根拠も、まったく不明な出鱈目なものである。
ネット右翼が標的にした「貧困女子高生」騒動
2016年8月18日、NHKの「ニュース7」の中で報じられた「貧困女子高生」報道にネット右翼が火を吹いた。この報道を要約すると、母子家庭の女子高生が、低所得のため専門学校への進学費用である約50万円を捻出できず進学をあきらめてしまったこと、その他に家にエアコンがない、パソコンがない、という窮状を扱ったものである。
これに対してネット右翼が「本当は(この女子高生は)貧困ではないのではないか」と疑いを持ち、SNS等で「本人特定」を開始。その結果、過去の個人情報を洗い出し、やれアニメのグッズを買った、高い画材を買った、高いランチを食った、映画に行った、DVDやゲーム機を持っている、などと私生活の消費動態を徹底的に調べ上げ、「NHKの捏造だ!」と大騒ぎした(貧困女子高生騒動)。
これは片山の「河本準一が贅沢をしている証拠がネットの中からたくさん出てきたのに……」という前掲書の内容と驚くほど酷似する過程を採っている。
貧困女子高生は、本当は豪勢な生活をしているのに、まるで同情を誘うかのように「貧困」を装っているに違いない。このような人間に同情するのは間違いである──、という思い込みが片山に、いやネット右翼全体にある。