こうした「退店行動」には興味深い特徴がある。SCの規模別に見ると、5万平米以上の巨大SCでのファッション関連ショップ出退店率はマイナス2.5%程度であるのに対して、5千平米以下のSCではマイナス7%(ファッション雑貨を除くとマイナス10%)なのだ。つまり退店行動は注目を集めやすい大規模なSCではなく、地味なところから静かに進行していくわけだ。

どの業種がファッション関連の抜けた穴を埋めているか

では、ファッション関連のショップが抜けた穴を埋めているのはどんな業種なのか。飲食かというと、近年はそうではなくなっている。

動向はSCの規模によって異なる。2017年度の3万平米未満の中小型SCでは、英会話、ヨガ、そろばんなどの各種教室が出店を増やしている。これに対し、3万平米以上の大型SCでは、銀行ATM、格安スマホ・ショップが増えている。つまり大型SCでは、金融や通信といった規制業種が出店を強化しているわけで、国の政策転換の影響がこんなところにも見られる。一方で規模の小さいSCでは、それらとは異なる業種がけん引役となっている。

なぜ中小型SCでは各種教室が増えているのだろうか。その理由を考えていくことで、今後のリアル店舗の役割について、変化のひとつの方向が見えてくる。

中小型SCの各種教室が増加傾向にあるか理由は、2つ考えられる。

第1に中小型SCでは基本的に、近隣からの来店客が多い。こうしたタイプのSCは、日常生活のなかでの利用をねらった商業施設であり、繰り返し通学することになる教室などの立地に向いている。しかしそれだけでは、なぜ、今になって各種教室が増加しているかは説明できない。第2の理由を探る必要がある。

第2に現在ではECの拡大によって、欲しいモノや情報はネットを通じて簡単に手に入る。この時代にあって必要性が高まっているのが、さまざまなモノや情報を使いこなすスキルである。こうしたスキルの学習には、ネット上の情報をただ眺めるだけでは限界がある。それらの情報を、身体に定着化させていくトレーニング空間が必要なのだ。SCにおける各種教室の増加は、この必要にこたえる動きと見ることができる。

同じサービスの領域でも、提供されるサービスを受け身で享受する飲食やエステなどのショップが伸び悩んでいるのに対して、利用者の能動的な参加が求められる各種教室が伸びていることも、こうした動きを示すものだろう。

20世紀に起きた消費社会への移行。その後も私たちは、モノと情報をますます大量に消費するようになっている。21世紀に入り、その主戦場がリアルからウェブへと移行していくなかで、20世紀型の「豊かな社会」をさらに上回る豊かさを、SCにおいてもいかに引き出すかが求められるようなっている。

その端緒をSCにおけるショップの業種構成の変化に見てきたわけだが、この潮流は業種構成だけではなく、ショップの運営方法をも動かしていくはずである。今後のSCは、身体を通じた学習や体験のための空間としての役割を、業種を問わず強めていくと思われる。

栗木 契(くりき・けい)
神戸大学大学院経営学研究科教授
1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。
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