夕方の準決勝・決勝の時間帯は気温が2度も上がる

先ほども述べた通り、サマータイムはモーニングセッションの暑さを和らげるが、イブニングセッションは逆効果となる。では今年ぐらいの猛暑だとどうなるのか。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Dmytro Aksonov)

東京の最高気温が36.5度に達した8月2日のデータでいうと、イブニングセッションの「始まり」の19時は31.2度、「終わり」の22時は30.1度。一方、サマータイムを導入した場合、17時は33.3度、20時は30.4度となる。「始まり」の時点の気温は2度以上も高くなってしまうのだ。

ウォーミングアップは1~2時間前から行うから、19時スタートだと16~18時、17時スタートだと14~16時)に行うことになる。後者の場合、それはかなり“危険”だ。観客も同じで、暑い時間帯に移動したうえで、まだまだ暑さが残るスタジアムに入ることになるため、熱中症のリスクが高くなる。

今年の日本選手権(6月22~24日)でも男子走り高跳びの優勝候補選手がウォーミングアップ中に熱中症で体調を崩して、優勝を逃している。8月2~6日に三重県・伊勢で行われたインターハイも例年以上の暑さで、熱中症によるDNS(棄権)やDNF(途中棄権)が多かった。過去にも夏に開催される世界大会では、痙攣などで期待された選手が実力を出し切れず、悔しい思いをしているシーンを何度も見てきた。

「暑さ」はアスリートの最大の敵

イブニングセッションの気温が高くなることを考えると、サマータイム導入はほとんど意味がない。さまざまな団体から抗議の声が上がっているように、リスクのほうが大きいのは明らかだ。

夏の世界大会で惨敗した日本人選手が、「予想以上に暑かった」というコメントを残すことがある。実際の気温はそれほどでもないが、暑さもあり、自分のパフォーマンスを発揮できなかったという意味だ。暑さに緊張が加わると、本来の自分を見失ってしまうことがある。特に国際経験が少ないアスリートは大舞台で実力を発揮するのは難しい。

また、暑さに強いといわれるケニア人選手も日本の異様なほど高い湿気の気候を嫌っている。気象条件が悪くなると、どんなレベルの選手でも“自滅”する可能性が高くなるのだ。ということは、暑さ対策がしっかりできていれば、活躍できるチャンスは大きくなる。