2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、サマータイム導入の是非が問われている。導入に対して楽観的な見方もあるが、IT技術者はシステム改修の費用や期間を理由に強く反対している。国際大学グローバルコミュニケーションセンター客員研究員の楠正憲氏は「数兆円の経済被害が発生するという試算もある。たとえば保証期間を過ぎた古いスマートフォンでは、データを失う恐れがある」と指摘する――。

噛み合わないサマータイム導入の「お値段」

サマータイム導入の可否を検討する上で、導入に必要な費用と期間の話は避けて通れない。環境庁(当時)が1999に発表した試算は、信号などのシステム改修費用が1000億円。航空機の運行スケジュールなどの調整に2年かかるというものだった。2011年、東日本大震災の際に民主党政権もサマータイムを検討したが、初期の設備投資に1兆円の資金が必要となり、導入を見送った。

立命館大学の上原哲太郎教授が8月10日に公開した資料では、サマータイム対応に係る重要インフラのシステム改修に約3000億円の費用と4~5年の期間、それとは別に機器の買い換えなどが必要となって数兆円の経済被害が発生するとしている。

環境省が作成したサマータイムを啓発するパンフレットの一部

それでも楽観的な意見は根強い。衆議院議員の船田元氏は8月13日「サマータイムについて」というブログを公開し「コンピュータなどの時間設定の変更は、律儀で真面目な国民ならば十分乗り切れるはずだ」と書いて、批判を集めた。

また環境省がサマータイム啓発のために作成したパンフレットでは、「最近では自動修正タイプの時計が増えている」といった記載がある。だが、システム改修の費用や期間などの課題などには触れられていない。

サマータイムの導入に対し、なぜ現状認識にこれほど差が出てしまうのか。それは課題について正確に理解されていないからだろう。ひとつずつ考えてみたい。

機種によってサマータイムの「解釈」が異なる電波時計

まずは時計だ。いくつかの電波時計はすでにサマータイムに対応している。だが、これがかえって厄介な問題を引き起こす。

現在日本で検討されている「2時間前倒し」のサマータイムを導入する場合、電波時計では2つの実現方法がある。標準電波の仕様通りに「日本標準時+夏時間フラグ」を立てる方法と、送出する時間そのものを2時間前倒しする方法だ。