2000年問題は業界が改修費用を負担したが、政府のサマータイム導入によって改修費用が発生する場合、産業界は時計やデジタル機器の買い換え、システムの改修費用に対する補助金や税制優遇など、国による費用の補助を求めることになるだろう。対応が間に合わずサマータイムに起因する事故が起こった場合には、リスクを承知で拙速にサマータイムを推進した政府も責任を問われることも考えられる。

当初の目的に立ち返って本当に必要な施策を見極めるべき

かつてサマータイムを検討してきた背景には省エネと地球温暖化対策があったはずだ。だが今では五輪開催時の猛暑対策の話にすり替っている。猛暑対策としてサマータイムを導入するのは巨額の費用と期間を要する一方、効果が不確実だ。サマータイムにかかる費用があれば、国立競技場だけでなく、あらゆる会場にクーラーを入れることもできる。

個々人がライフスタイルを見直すことでエネルギー消費を抑制し、もっと心地良い環境で生活を送る方法は、時間を動かすだけではない。サマータイムを古くから実施してきた欧州も近年は時差ボケによる健康被害や交通事故の増加といった指摘を踏まえて、サマータイムを見直す動きがある。EUのユンケル欧州委員長は8月31日(現地時間)、ドイツの公共テレビZDFとのインタビューで制度の廃止を目指す意向を表明している。

早寝早起きで日中を有効に使うことには価値があるが、早起きを全ての国民に押し付けて睡眠不足で健康を害したり、交通事故を誘発したりしてしまっては本末転倒だ。数兆円の費用と数年の期間をかける取り組みをするのであれば、個々人のワークスタイルの多様化を支えられるような、持続可能な社会システムを構築するべきではないか。それもまた五輪のレガシーとして後世に活かしていけるはずだ。

楠 正憲(くすのき・まさのり)
国際大学グローバルコミュニケーションセンター 客員研究員
インターネット総合研究所、マイクロソフト、ヤフーなどを経て、現在は銀行系FinTech企業でCTOを務める。2011年から内閣官房の補佐官としてマイナンバー制度を支える情報システムの構築に従事。ISO/TC307 国内委員会 委員長としてブロックチェーン技術の国際標準化に携わる。
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