世界最大のパクリ街、深セン「華強北」
Facebook、Amazon、Apple、Netflix、Google……アメリカのハイテク業界を支配するIT企業群は「FAANG(ファング)」と呼ばれているが、そのFAANGが青ざめながら注視しているメガシティが中国の深セン市だ。深センは広東省にある香港に隣接した都市で、ファーウェイ(華為技術)、ZTEなどの大手通信機器メーカー、フィンテックで大化けしている中国平安保険、ドローン世界最大手のDJIなど、世界を席巻中の中国企業が数多く本拠を置いている。「中国のシリコンバレー」として世界から注目されて、FAANGをはじめグローバル企業が続々、研究開発拠点を開設しているのだ。またシリコンバレーのVC大手であるセコイア・キャピタルなどもかなり大規模な投資を行っている。
中国ではここ数年、広東省の省都である広州市が1人当たりGDPで中国1位を維持してきたが、16年の統計では深センがナンバーワンになった。1人当たりGDP約2万5000ドルはすでに台湾より上だ。今や人口も1400万人を超えて、北京、上海に次いで中国第3の都市との呼び声も高い。しかしトウ小平の改革開放路線が始まった78年、今から40年前は人口33万人の小さな漁村だった。トウ小平から改革開放のモデル都市として「一国二制度」の経済特区に選ばれて、深センの運命は大きく変わる。深センを開放すれば香港のおこぼれにあずかれるというのがトウ小平の思惑だったと思うが、実際、最初にできたのは香港フラワー(ビニールやプラスチック製の造花)の工場だった。87年にはファーウェイが設立され、90年代に入ると安価な労働力を求めて台湾の鴻海精密工業が「フォックスコン」の名前で深センに進出してきた(現在の主力工場は四川省の成都にある)。フォックスコンにしてもファーウェイにしても、長らくOEM(他社ブランドの製品を製造すること)の受託生産を得意技にしてきた。おかげで深センにはあらゆる部品をつくり出す産業基盤が整っている。「華強北」という有名なパクリ街が深センにあって、「これと同じものをつくってくれ」と頼めばその日の午後には試作品が出来上がって「何万個要る?」という商談になる。「華強北」は秋葉原の30倍の面積で、1日50万人が訪れるという。
そうした産業基盤がシリコンバレーにはない深センの強みだ。自動運転車にしてもお掃除ロボットにしても、アイデアを「モノ」に落とし込んで実際に「動かす」ことが重要だ。そのための産業インフラ、部品インフラが揃っていて、STEM教育を受けた人材が集まり、世界中から投資も集まってくる。まさにモノ、ヒト、カネを呼び込む世界最先端都市なのだ。