どの記者会見も木で鼻をくくるようなものだった
カテーテルの挿入ミスが発覚してからは、2003年から2004年にかけて東京医大病院ではたまっていた膿(うみ)が噴き出すかのように隠蔽されていた医療事故が次々と明らかになった。
幼児に対する人工内耳の埋め込み手術で埋め込む耳を間違えたり、骨髄液を採取する骨髄穿刺の検査で針が心臓まで届いて患者を死亡させたりもしていた。心臓の手術では1人の医師が計4人もの患者を死亡させた事故も発覚した。
東京医大病院は医療事故が発覚する度に記者会見を行ったが、どの記者会見も木で鼻をくくるようなもので、記者の質問にまともに答えるようなものではなかった。
要は社会常識がないのだ。物差しがずれているのである。
医師や看護師、医療技師という同じような人種が集まる病院では物差しのずれになかなか気付かない。医局の教授を中心とする大学病院のような大組織になればなるほどそうした傾向が強くなる。思考がたこつぼにはまって身動きできなくなる。その結果、社会常識から遠く離れた行動を取る。
前述したわずか5分で一方的に終わらせた記者会見がその象徴である。目の前の新聞記者や放送記者の背後に、多くの読者や視聴者がいることを忘れている。
大切なのは、病院の仕事が人の命を救うことだということを深く自覚することだ。
「どのように謝罪し、救済の措置をとるのか」
さてこの辺で新聞各紙の社説を見ていこう。
朝日新聞は8月3日付社説で「明らかな女性差別だ」と見出しを掲げる。半本だが、1番手の扱いだ。しかも東京医大の女性差別入試を8月2日付朝刊一面でスクープした読売新聞に先駆けての社説である。朝日新聞は女性差別にうるさいのだろう。
朝日社説はその中盤で「女子受験生の点数操作は遅くとも2010年ごろから続いていたとみられる。いったい何人が不当に不合格にされたのか。どのように謝罪し、救済の措置をとるのか。大学は早急に考えを示す必要がある」と主張する。
さらに朝日社説はこう訴える。
「女性医師の休職や離職が多いのは事実だ。だがそれは、他の多くの職場と同じく、家庭や子どもを持ちながら仕事を続けられる環境が、医療現場に整っていないためだ。厚生労働省の検討会などでも整備の必要性がかねて指摘され、医療界全体の課題になっている」
「その解決に向け先頭に立ち、意識改革も図るのが、医療、研究、教育を担う医大の大きな役割ではないか」
やはり医療界全体の問題としてしっかりと把握し、解決策を探るべきだ。東京医大だけの問題ではない。他の医大でも同様に女子受験生の差別が行われている可能性がある。文科省にはきちんと調査してほしい。各医大も内部調査を実施し、対応を進める必要がある。対岸の火事として傍観している場合ではない。