聞くことにこそ真の救いがある
『ファミリー・ライフ』を書こうと思った理由は、いくつかあります。まず書き手として、書くに値するものだと思ったこと。そしてもうひとつは、自分の家族の記録をつくろうと思ったことです。優秀な兄を襲った事故と寝たきりの生活。私の両親にふりかかったのは思いもつかないような試練でしたし、兄に起こったのは悲劇でした。人生で大変な試練を受けた人の多くは、生きていくためにそのことを忘れようとし、実際に忘れていきます。でも私は、忘れないようにしたかった。
先ほど私は、「自分の話を聞いてほしい」という欲求が書くことにつながったと話しました。でも、話を聞いてもらえれば人は救われるのかと問われれば、問題はもう少し複雑だと言わざるをえません。
人はしばしば、「誰かに話を聞いてもらって、自分のこの痛みを取り除いてほしい」と期待します。確かに、自分の不安や不幸せな思いをほかの人に表明すれば、そのときはいくばくかの安らぎを得られるかもしれません。
でももし、私が自分の不幸や不安を語り続けたとしたら、その不幸や不安はずっと私の中にとどまり続けます。口にするたびそれらを思い出すわけですから、かえって強固にしてしまうかもしれません。
逆に誰かの声に耳を傾けようとすることが、大きな救いになることもあると思います。誰かほかの人のことを気にかけているときは、自然と、自分のことについてあれこれ心配しなくなりますから。真の救いは、そちらにあるのかもしれません。
作家
1971年、インド・デリー生まれ。8歳で家族とアメリカに移住。プリンストン大学、スタンフォード大学、ハーバード大学ロースクールを経て、投資銀行に勤務。退職し作家業に専念。