子どもの肖像権が親によって侵害されている

【中川】あと、俺がSNSでモヤモヤしているのは、子どもの写真や動画を掲載しまくることなんです。なぜかと言うと、仮にその子どもが将来、犯罪者か被害者になった場合、容易に過去をさかのぼられてしまう可能性があるから。

宮崎智之『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)

これまでであれば、何か事件が発生した場合、メディアはこぞって容疑者・被害者の卒業アルバムを手に入れようとしてきたけど、今後はSNSを調べたら、それこそ生まれた瞬間の写真まで入手できたりするかもしれない。あと、子どもが芸能人になったとして、幼少期の写真をSNSでチェックされ、「あれ? いまと顔が違うぞ」なんてところから整形手術したことがバレてしまうかもしれない。問題は、子どもは親に自分の写真や動画をアップする許可を与えていない、ということなんです。

【宮崎】たしかに、高校デビューなんてこともできなくなるかもしれませんね。それによって、スクールカーストの固定化が進むかも。僕はSNSのなかで一番、インスタグラムを見ているのですが、子どもの写真や動画をアップしている親は、自分の顔を隠したり、写していなかったりしているケースが多いんです。

【中川】そう、自分のプライバシーはちゃんと守っているんですよね。親に肖像権を侵害され、実害を被る人たちが、これから出てくるのではないでしょうか。

寝る前は「殺伐としたツイッター」よりも「平和なインスタ」

【宮崎】実際、僕がインスタグラムで一番見ているのは、他人の赤ちゃんと犬の写真、動画なんですよ。一消費者としては、中川さんの言う「ウェブはバカと暇人のもの」を実践しているわけです。で、インスタでは何がおこなわれているのかというと、赤ちゃんの写真、動画にタグ付けして投稿すると、アルファインスタグラマーみたいな人がその写真や動画を拾って、自分のインスタのアカウントで拡散してくれたりするんです。それが親たちにはうれしい。

【中川】それってどうなんだろう。心配にならないのかなぁ。

【宮崎】僕がインスタを見ながらよくやっているのは、そのかわいい赤ちゃんの写真をあげているお母さんやお父さんのアカウントに飛んで、産まれた瞬間までさかのぼるということなんです。「こんなムチムチでかわいい赤ちゃんが、はじめはもっと小さくてしわくちゃな新生児だったんだ」と、生命の神秘に触れながら感動する。寝る前にツイッターとフェイスブックを見ちゃうと、殺伐とした気持ちになって寝付けなくなってしまうから、平和なインスタを見るんですよ。

僕は、そういうことを無邪気な気持ちでやっていたつもりでしたけど、中川さんのお話を聞くと、結構ヤバいヤツですよね。赤ちゃんからしてみたら、親に無断でアップされたものであるわけですし。

【中川】ある程度成長したら、本人に尋ねてもよいのでは。「これまで、お前の写真を勝手にSNSに上げてきたけど、どうする? イヤなら削除するけど」くらいの配慮は必要かもしれない。“過去に親がSNSに上げた写真”が子どもにとってモヤモヤの種になるとしたら、不幸なことですよ。

【宮崎】それにしても、今回はSNSのモヤモヤから、ライター業界のモヤモヤまで、いろいろ深い話ができたと思います。モヤモヤがすっきり晴れることはないのかもしれませんが、これからモヤモヤしながら考えを深めていきたいです。本当にありがとうございました。

宮崎智之(みやざき・ともゆき)
ライター
1982年生まれ、東京都出身。地域紙記者、編集プロダクションなどを経て、フリーライターに。カルチャー、男女問題についてのコラムのほか、日常生活における違和感を綴ったエッセイを、雑誌、Webメディアなどに寄稿している。ラジオなどのメディアやイベント出演も多数。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
ネットニュース編集者/PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。

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