人生を豊かで楽しいものにするには、どうすればいいのか。新刊『モヤモヤの日々』(晶文社)を出したライターの宮崎智之さんは「『僕たち』のような大きな主語を使わず、『僕』という極私的な一人称にこだわった。そうして日常のモヤモヤを突き詰めることで、誰かの生活や仕事を豊かにする、普遍的な文章を書けるのではないかと考えた」という――。
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スピード感や熱ばかり求めることは正しいのか

ビジネスの世界では、「最年少上場記録」や「PDCAサイクルをはやくまわす」といった、スピード感がありがたがられる。「熱狂型」のモチベーション向上術などが、ビジネス書でももてはやされている。

しかし、とくにコロナ禍になってからは、そういったスピードや熱ばかり求める風潮に疑問を抱きはじめた人は多いのではないか。筆者は、現代が変化の激しい時代だからこそ、「なぎ」の中に身を置き、周囲にあるものをじっくり観察して、ボタンのかけ違いがないか確認しながら進むことが大切だと考えている。凪はただの無風状態ではなく、風が切り替わる創造的な瞬間なのだ。

8月29日に上梓した新刊『モヤモヤの日々』(晶文社)は、2020年12月22日~2021年12月30日まで、WEBマガジン「晶文社スクラップブック」にて、平日毎日17時に公開したエッセイを一冊にまとめたものである。平日毎日といっても、ストックの原稿をためることはなく、その日の原稿はその日に書いて提出し、その日に公開した。そういう意味では「日記文学」でもある。

モヤモヤ、違和感、思い出したことを1年間書き続けた

毎日、その日に起こった出来事のモヤモヤ、違和感、思い出したことなどを、約1年間、書き続けた。よく一度もネタ切れにならずに済んだなとわれながらに思うが、むしろ「ネタ」を求めているようでは、この手の連載は続かない。「○○してみました!」といったようなネタづくりは絶対にしたくなかった。かといって、毎日、エッセイのネタになるような面白い出来事が起こるわけではない。

さらに、連載期間中はコロナ禍の真っ最中である。フリーランスで在宅勤務する筆者は、取材や打ち合わせはリモートで行い、外出するのは、近くのスーパーやコンビニへの買い物か、犬の散歩くらい。極端に行動範囲の狭い日常が続くなかで、毎日書くのはそれなりに大変な挑戦だった。