私たちは、必ず死ぬ。限られた人生を、私たちはどう生きればいいのか。ブラジルの緩和ケア医アナ・アランチス氏による世界的ベストセラー『死にゆくあなたへ 緩和ケア医が教える生き方・死に方・看取り方』(飛鳥新社)より、一部を紹介する――。(第1回)
窓のそばの机の上にあるめがね、時計、新聞
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時間を「どのように」経験するか

時間を意味づけるのは、その時間を「どのように」経験したかということです。起こったことが何であれ、時間は経験に意味を与えます。

死にゆく時間がゆっくりであれば、死について考える時間が長くなります。それはとても恐ろしいことです。人は、死について長く考えたいとは思っていません。

想像してみてください。

もしあなたが病院のベッドにいて、誰かが病室にやってくるのを心待ちにしていたら、時間をどう感じるでしょうか? オムツを替えてもらうのを待つ時間は? 入浴を待つ時間、痛み止めの薬を待つ時間は? 患者がどんな時間を過ごしているかを医師が知れば、患者や家族にもっと配慮した接し方ができるはずです。

死への過程の中では、物理的な時間の認識から離れて、そのとき何をすべきかがわかり、的確な決断ができます。死が迫ると、物質的な執着から解放されます。

時間は貯めることも取り戻すこともできない

時間を貯めておくことはできませんし、過ぎた時間は戻ってきません。それなのに私たちは、どうでもいいことに悩んだり苦しんだりして時間を浪費します。人間関係や洋服や車は大切にするのに、時間には注意を払いません。どれだけお金を払っても、時間を手元に置いておくことはできません。あなたの手元に残るのは、時間により与えられた経験だけです。

過ぎていく時間の中で、あなたは何をするつもりですか? 何をしていますか? その問いかけが、あなたに賢い選択をさせる鍵になるでしょう。限られた時間の中で、何をするのが正解なのでしょうか?