※本稿は、笹本裕『イーロン・ショック 元Twitterジャパン社長が見た「破壊と創造」の215日』(文藝春秋)の一部を再編集したものです。
わずか3、4日で社員の半分以上をリストラ
イーロンが見ているのは「人類」です。
彼はとてつもなく大きな絵を描いています。本当なら何世代もかかるようなことを、ひとつの世代というか、自分自身の生涯の中でやり遂げようとしている。そんな人はこれまでの人類史上、おそらくいなかったでしょう。
「できるところまでやって、あとは子孫に継承しよう」などという思いはおそらくない。だから、ものすごく時間に敏感なのです。彼と接していると、「なぜこの人はこんなに生き急いでいるのだろう?」とよく思います。
Twitterの社員を7800人から3000人に減らすのも、あっという間に決断して執行してしまった。通常のリストラであれば、計画してから執行までに半年ほどかけてやるようなことです。それを3、4日でやってしまう。それは、今まで普通に生きてきた私たちからすると違和感でしかありませんでした。
しかし、イーロンの時間軸で考えてみると普通のことなのでしょう。
人類を救いたいけど、人間の心には無関心
これはあくまで私の推測ですが、彼は「人間の心」に興味がないのだと思います。
一方でイーロンは「人類を救いたい」とも言っています。
つまり、一人ひとりの人間に対しては興味がないけれど、人類という全体としての種には興味がある、ということなのでしょう。
もっと言えば、人間の「心」はどうでもいい、ということなのかもしれません。彼の中で「人類」と「人間の心」はイコールではない。
人間の脳にコンピューターチップを埋め込むニューラリンクを作ろうとしている時点で、人間の心なんか考えていないのかもしれません。人類という存在は尊重しているけれども、人間の個々の心や感情はあまり気にしていない。
イーロンが主語にするのは、つねに「人類」です。人類が主語なので、どうしても考え方は「マクロ」になります。
経営するうえでは、マクロとミクロ、どちらも大切です。しかしイーロンは、つねにマクロで見ている。人類レベルで何かを創造することに主眼を置いているのです。