「3時間でやってくれ」は日常茶飯事

彼からはいつも、突然連絡が来ました。

もちろん彼としては自分のスケジュールで進めているのだと思いますが、私たちはそのスケジュールを見ることはできません。だから「突如としてぶっこんできた」という感覚になる。これは彼と出会ってから半年間、ずっと変わりませんでした。

イーロンがTwitterの買収を完了したのが2022年10月28日のこと。

それ以降は、毎週土曜日になんらかの指令がありました。彼から直接来ることもあれば、誰かを経由して来ることもあった。そしてたいていは「明日からやろう」とか「今からやろう」というもの。「3時間後までにこれをやってくれ」という指示もよくありました。

イーロンとのやりとりで印象的だったのは、決断の早さです。彼は決断のスピードには妥協を許しません。矢継ぎ早に指示が飛んで来ました。

規模の大きい企業になると、どんなに早くても「じゃあ来週ね」とか「じゃあ来月までに」くらいのスピード感になってしまうものです。そこを彼は、日単位、時間単位のスピード感で進めるのです。

元Twitterジャパン社長の笹本裕さん
提供=文藝春秋
元Twitterジャパン社長の笹本裕さん

「実行」しないと革新的な成功は生まれない

たとえば「日本向けに検索連動型の広告商材を作りたい」という話をしたとき、彼はその場でその話に没頭して、そのまま「よし、やろう」と決めてしまいました。結局その商材は、2〜3週間という異常なスピードでできあがった。彼の時間軸は、本当に尋常じゃないのです。

一方、時間軸が早いということはリスクも高いのは当然です。

すぐ壊れたり、問題が起きたりすることも、しょっちゅうあります。それでもイーロンは言うのです。「完璧なものは出ない。でも、出すんだ」と。彼は、まずは出してしまって、とにかくフィードバックをたくさん吸い上げていこうという考え方です。そこは、ある面ですごく正しいと思います。

スペースXがまさにそうでしょう。2023年4月には打ち上げた大型宇宙船「スターシップ」が空中で爆発したことがありましたが、それは彼にとっては「いい実験ができた、多くのことを学んだ」ということになります。

人によっては、そんな発言を負け惜しみと捉える人もいるしょう。でも、たしかにいい「実験」なのです。どんなに石橋を叩いても、どんなに議論を重ねても、「実行」という「実験」をしなければ理論だけでは革新的な成功は生まれないのかもしれません。

スピードへの妥協は許さない。だから彼を止めようとする人は、排除されてしまいます。それはいい側面もありますが、一方で彼を思いとどまらせて代案などを議論しようと言ってくれる人が、ときには必要だとも思います。