自分を切り売りする手法の限界
【中川】恋愛系バラエティー「あいのり」(フジテレビ)に出演して注目され、人気ブロガーになった桃が、近ごろ新境地を切り開いています。彼女は最近、セックスレスを理由に離婚したと発表して話題を呼びました。要するに「セックスレス離婚」というポジションを取ったわけです。そして、おそらく次は「離婚した私が、どのように次の相手を見つけるか」ということを商品にしてくるはず。「バツイチ合コンブロガー」みたいな言葉を作って、売り出してくるかもしれない。
【宮崎】ありそうですね。
【中川】そして、仮に再婚がかなったとしたら、今度は「セックスレス離婚から立ち直り、幾多のバツイチ合コンを経て、ついに再婚を勝ち取った私のドキドキ妊活ライフ」みたいな記事を書くのではないかと。桃に限らず、承認欲求をギラつかせながら私生活をあけすけに垂れ流すような、ウェブのちょっとした有名人は数多い。読モライターは、そういう連中を相手にしなければいけない恐ろしさを、もっと自覚したほうがいい。桃なんて、整形願望を明かしたと思えば本当に整形をしてしまう! 「あいのり」時代の思い出に加え、当時の仲間との旅行やら結婚式なども含め、とにかくネタにする。おい、10年前のネタでまだ食うのかよ、スゲーな! と脱帽するほどの“怪物”が相手なんですよ。
【宮崎】もちろん、物書きとしてのライターも、そういうライフステージによる変化に対応していく必要はあります。それに、トークイベントやマスコミに出て存在感を高めなければ、なかなか本が売れないという現実もある。僕自身もそういう努力をしていますし、お話があれば喜んで出演します。だから、タレント化は表現を仕事にする者ならば、多かれ少なかれ意識しなければいけない。また、これは発信側だけの問題ではなくて、見る側も「他人の人生」を最高の娯楽として享受するようになってきた、という背景があるように思います。SNSが登場してから、よりその流れが加速しているように感じる。
【中川】何だかんだ言って、みんなゴシップネタが大好きなんですよ。政治や経済に関するビッグニュースがあっても、芸能人の不倫が発覚した瞬間に読者がそちらに流れて、思ったほどPVが伸びなかったりしますから。
インフルエンサーや読モライターは批判に弱い
【宮崎】“プロの物書き”というジャンルに属すライターにも、自分の人生を切り売りする人は昔からいました。でも、それがすべてになってきてしまっている現状にはモヤモヤします。取材力や文章力、構成力を磨けば、たとえタレント性がなくてもライターにはなれるわけで、タレント的な読モライターが、ライターのすべてだと外から思われてしまうのにはとても抵抗がある。このままでは、それこそ就職活動の自己PRネタ集めと一緒で、ライターになるために「極貧で世界一周旅行」みたいな特殊な体験をわざわざ積もうとする人が出てくるかもしれない。もうすでに、出ているのかもしれませんけど。
【中川】紙媒体が主流だった時代は、掲載する枠に物理的な限界があったからこそ、文章のクオリティや長さ、取り扱う内容など、コンテンツに関して厳しく選別されていました。でも、今はネットメディアがあるから、少なくとも文字数についての制限はだいぶ緩くなっている。さらに、ネットメディアに載らなくても、自分でブログを書いたり、SNSを更新したりすることができるようになった。
【宮崎】おっしゃるとおりです。
【中川】加えて、俺が懸念するのは、インフルエンサーや読モライターの人たちは批判に弱いということなんです。本来、物を書いて発表するという行為はしんどいものじゃないですか。考えが違う人たちから批判がくるし、論争に巻き込まれたりもする。でも、インフルエンサーや読モライターは基本的にPR記事を含めた穏やかな文章を書いているので、批判されることが少ないんです。そういうタイプの書き手が、50歳、60歳まで仕事を続けられるかと考えると、難しいと思う。
【宮崎】そういえば、中川さんも一時期、ツイッターで読モライターを名乗っていましたよね。
【中川】そうそう、ネタとしてね。ツイッターのプロフィール欄に「ハイパー読モライターZ' TURBO」と書いていたんですけど、それ以外にも「自称・郷土史研究家」「自称・元課長代理補佐として様々なプロジェクトに携わり、いずれも成功に導く」など10個くらいの肩書きを名乗っていたので、サッカーワールドカップが始まったとき、「ブブゼラ大好き」を入れるために「ハイパー読モライターZ' TURBO」は外してしまいました。プロフィール欄の文字数制限がありますからね。