「あっぱれ!」「喝!」は最新スポーツ科学を踏まえよ
プロ野球ではさすがにないが、高校野球の練習では、「100mダッシュ×100本」のような、何をしたいのかわからない謎のメニューをこなす強豪チームがある。
断言してもいいが、「全力」でやっていたら、絶対にこなすことのできないメニューだ。手を抜くからこそこなせるメニューであるし、どんな「能力」が身につくのか、論理的に説明できる指導者がいるのだろうか。
投げ込んだから、走り込んだから、きつい練習をしたから。
そういう行為は「これだけやったんだから」という根拠の薄い自信をつけるには有効かもしれない。だが、それを指導者が選手に押し付けるのは間違っている。ましてやスポーツは「神事」ではないし、トレーニングは「修行」ではない。苦しいことをしないと結果は出ない(出てはいけない)。そんな考えが日本人には刷り込まれているような気がするのは筆者だけだろうか。
▼日本のアスリートは「努力のかたち」を見直すべき
スポーツは「楽しい」ことで、トレーニングは「うまくなる、強くなる」ために行うものだ。苦しいことを乗り切ったから結果が出ると信じているとすれば、そうしたアスリートは「努力のかたち」を見直してほしい。
スポーツサイエンスの世界は日進月歩だ。野球の投手は、大昔は「常に肩を冷やすな」だったが(夏にプールに入るのを避けていた選手もいた)、現在では投球直後に肩をアイシングすることが常識になっている。「水を飲むな」も、「こまめに水分補給をしろ」に変わった。知識を常にアップデートしていかないと、世界レベルからは引き離されていく。
番組で「あっぱれ!」「喝!」と叫ぶのはテレビ上の演出だろう。また張本が自身の経験に基づいて持論を展開することがあってもいい。しかし、有識者として意見を述べるのであれば、最新のスポーツ科学の知識を踏まえるべきだ。
依然としてテレビ報道は大きな影響力をもっている。トレーニングはキツさより中身が重要であるし、スポーツはキツいものではなく楽しいものだ。無責任な発言で「努力のかたち」をゆがめることがあってはいけない。(文中一部敬称略)