プロ野球ではシーズン終盤になると、各チームで引退試合が行われる。スポーツライターの広尾晃さんは「引退試合では、手心を加えたような『微妙なプレー』が散見される。それはスポーツとしての根幹を揺るがす行為で、非常に問題だ」という――。
引退試合を終え、ナインに胴上げされる西武・金子侑司=2024年9月15日、ベルーナドーム
写真=共同通信社
引退試合を終え、ナインに胴上げされる西武・金子侑司=2024年9月15日、ベルーナドーム

公式戦を“引退試合”にすることは、本当に正しいことなのか

今年も引退を表明した選手が、「引退試合」と称して公式戦に出場する季節がやってきた。筆者はメディアやブログで「公式戦を“引退試合”にして出場するのは、本当に正しいことなのか?」ということを言ってきた。ヤフコメなどで炎上したが、それでも言わずにはおれない。

シーズン中に引退表明する選手の多くは、一定の期間、一軍で活躍した選手であり、ファンにもなじみがある選手だ。

最近は、支配下登録されず二軍に落ちている選手を1試合限定で一軍に昇格させ、引退試合」と称して公式戦に出場させることが多くなった。これは2017年8月にNPBが「引退選手特例」を設けたことによる。プロ野球の公式戦において引退試合を行う選手を1日限定で、出場選手登録に追加できるようにしたのだ。

球団にとっては、引退試合はシーズン終盤に観客動員を押し上げる強力なマーケティングになる。チケット販売サイトで「○○選手出場」などと銘打つことも多くなっている。

今季もそういう例が散見された。

9月1日に引退を発表した西武ライオンズの金子侑司は、2度の盗塁王に輝く外野手だ。今シーズンはこれまで32試合に出場していたが、6月15日を最後に登録抹消されていた。

9月15日のロッテ戦には、3カ月半ぶりに1番左翼で先発出場。3打席凡退した後、8回裏に4打席目が回ってきた。

金子の前の打者の元山は1死満塁の状況で打席に立っていた。結果は見逃し三振だった。金子に打席を回すため、併殺打を回避したためと伝えられている。

わざとファウルを補球しなかった

この打席で、金子はフルカウントから捕手へのファウルフライを打ち上げた。ロッテの佐藤都志也は、バックネット手前に上がったフライを追うも捕球できず。金子は結局、遊撃手へのライナーに倒れた。

翌日のスポーツ紙は「ロッテの佐藤都志也、金子の捕邪飛をあえて取らず」と報じた。見逃し三振の元山、ロッテの佐藤に対し、解説者の「流石です」というコメントまで載せている。(デイリースポーツ 9/16 9:25配信記事)

動画を見る限り、佐藤は金子の捕邪飛を追いかけて捕球しようとしていたように見える。もし、佐藤がわざとファウルを捕球しなかったのだとすると問題だ。

さらに、オリックスの外野手・小田裕也も9月16日に引退を表明。24日の西武戦が現役最後の試合となった。8回に打席に立つと、捕手へのファウルフライを打ち上げた。西武の捕手古賀悠斗は落下地点に入っていたが、捕球できず。

一部メディアは「目測を誤ったかのように装い、“捕球できなかった”」と書き、実況アナは「エラーをつけてほしくないですね」と要望した。事実、公式記録員は古賀に失策を付けなかった。

筆者は信じがたい思いでこうした記事を読んでいる。