【高岡】『花とアリス』の成功から、ネスレも短編映画の世界に足を踏み入れ、いまではネスレのブランドを表現したショートフィルムを集めた「ネスレシアター」を展開するまでになりました。そこで多くの監督さんとお会いしますが、どの方も『花とアリス』はご存じですね。あれに衝撃と刺激を受けたから、それを仕掛けたネスレと仕事がしたいとおっしゃる監督さんも多かった。岩井さんがおっしゃるように、多くの人が短編映画を意識するようになったことは間違いありませんね。

映画監督の岩井俊二氏(左)とネスレ日本の高岡浩三社長(右)

ブランド広告のイノベーションだった

【岩井】04年には『花とアリス』を長編映画化し、劇場公開しましたが、それほどヒットしたわけではありません。でも不思議なことに、驚異的なビデオセールスを記録したと聞いています。小耳にはさんだのは、その年の東宝の就職活動で面接に来る学生さんが、口々に「こういう映画をつくりたい」と挙げたのが『花とアリス』だったそうです。これはちょっとした語り草になっていて、いまでも言われることがあります。

【高岡】このショートフィルムは、商品開発の技術ではなく、ブランド広告の分野でのイノベーションという珍しい事例です。しかも、私自身としてもネスレとしても、インターネットを使った新しい試みでした。その後、私はネスレ日本のCEOに就任し、インターネットを使ったビジネスモデル「ネスカフェ アンバサダー」を立ち上げます。その原点は岩井さんとの出会いだったと思っています。

【岩井】そう言っていただけると、とてもありがたいですね。

【高岡】多くの人が業界のしがらみに縛られているから、イノベーティブな発想を一緒に進められる人がいません。イノベーションは、賛同者や共感してくれる人がいなければ起こらないですよね。