エヌビディアを中心としたエコシステムの誕生

GPUは1999年に発明されて以来、主にPCゲームのグラフィックを超高速で表示するために使われてきました。しかし、これがディープラーニングに活用できることがわかると、自動運転車の実用化を目指す自動車メーカーが、軒並みGPUを採用し始めたのです。現在のエヌビディアはAI、GPU、ビジュアルコンピューティングなどを戦略の軸として、ゲーミング、エンタープライズグラフィックス、データセンター、自動車という四つの重点ターゲットを設定していますが、なかでも、「AIコンピューティングカンパニー」としてAI用半導体で攻勢をかけています。

次世代自動車産業のプレイヤーがこぞってエヌビディアのGPUを採用する様は、エヌビディアを中心としたプラットフォームやエコシステムの誕生を見るようです。

自動車メーカーでは、ドイツのダイムラー、フォルクスワーゲン、アウディ、米国のフォード、テスラ、そして日本のトヨタがエヌビディア陣営に。特にテスラが自動運転の開発で先行できたのは、同社のGPUを搭載したAI車載コンピューティングプラットフォーム「DRIVE PX 2」を採用したことが大きいとされています。

自動車部品ではドイツのZF、ボッシュ、コンチネンタル、高精度3次元地図ではドイツのHERE、オランダのTOMTOM、日本のゼンリンと協力関係にあります。

中国の国策である「アポロ」の一角を担う

ただし、テスラはAI用半導体を自社開発する方針を示し、またフォルクスワーゲンはインテルに買収されたモービルアイとも提携しており、エヌビディアとの結束はいくぶん緩やかだと言えます。

バイドゥの自動運転プラットフォーム「アポロ計画」にもエヌビディアは参画しています。CES2018では、「バイドゥ×エヌビディア×ZF」の3社の提携による、車載コンピューティングユニットの開発推進が発表されました。これは中国市場での量産対応を見据えたものです。「アポロ」のコンピューティングユニットはバイドゥの囲い込み戦略の一環。同時に「次世代自動車産業の覇権を狙う中国」の国策である「アポロ」の一角を担う点で、エヌビディアの役どころは注目に値します。

エヌビディアは、もともと、後発の新興半導体メーカー。インテルなど大手企業の下請けをする小さな会社だったことが信じられないほどの「下克上」ぶりです。

この「下剋上」という言葉はもう一つの意味を含んでいます。伝統的な自動車産業においては、半導体チップメーカーは一部品メーカーに過ぎませんでした。しかし、自動運転、EV、コネクテッドカーなどからなる次世代自動車産業においては、サプライチェーンを支配するプラットフォーマーにもなりうるということを、エヌビディアは示しているのです。より具体的には、PCにおける「ウィンテル支配体制」のインテルのような存在になる可能性を持っている代表格企業がエヌビディアなのです。