コンピュータの処理能力は18カ月ごとに倍増

この本は、企業として“アメリカンドリーム”を体現したインテルの物語だ。同社は、世界のCPU市場を長期にわたってリードしてきた。たいていのパソコンに「インテル・インサイド」のシールが貼られていて、その名前は誰もが知っているだろう。1968年の創業から、一世代のうちに世界経済の中心的存在になった。なにしろ、毎年数十億ドル稼ぎ出す製造業なのである。

『インテル』マイケル・マローン著 土方奈美訳 文藝春秋

主人公は、最初の40年を率いた3人の男たち。ロバート・ノイスは強烈なカリスマ性を持ち、彼がいるだけで、その場が華やぐようだったという。彼はIC(集積回路)の発明者の1人に名を連ね、それはやがてインテルの主力商品となるマイクロプロセッサへと進化する。次に「コンピュータの処理能力は18カ月ごとに倍増する」ことを発見したゴードン・ムーア。そのヒラメキは「ムーアの法則」として名高い。そして、天才経営者と自他ともに認めるアンディ・グローブだ。

著者のマイケル・マローンは、地元紙の記者として、長年にわたりシリコンバレーとハイテク産業を取材してきた。そんな彼は、同社の軌跡を、(1)ベンチャー企業の時代、(2)マイクロプロセッサ戦争の時代、(3)業界の覇者の時代、(4)世界的巨人の時代、(5)ポスト創業者時代――に分ける。その間、いくつもの技術的イノベーションがあり、水際だった経営判断があった。

とりわけ、草創期の経営を支えたメモリチップを捨て、マイクロプロセッサに特化した意思決定が、同社の独り勝ちを約束したのである。さらに加えれば、ハイテク市場に残る最高のマーケティングと評価される「インテル・インサイド」の展開は、インテルというブランドを揺るぎないものにしたといっていい。