ティールにとっての「ウォズニアック」は誰か?

ティールにとって強固な友情は起業家として成功するための基本だ。ブルームバーグのインタビューでこう答えている。

「よくあるスタートアップ神話は、全能の創業者が一人ですべてを実現するというものですよね。でも僕は、どのプロジェクトであれ一人でやったことはありません。僕にはよく話し合う友人がいて、彼らと密に協力しながら仕事をしているんです」

トーマス・ラッポルト『ピーター・ティール 世界を手にした「反逆の起業家」の野望』(赤坂桃子訳、飛鳥新社)

起業家としてのティールの行動パターンをつぶさに見ていくと、「相性」がカギであることがわかる。彼は、自分が信頼できる人間に大きく賭ける傾向がある。彼には、自らの思考の道筋を全面的に理解してくれる相性のいいパートナーが少なくとも一人は必要だ。その点はスティーブ・ジョブズと同じだ。ジョブズは、アップルを共同創業した天才プログラマー、スティーブ・ウォズニアックがいなかったらどうなっていただろう?

ペイパル創業時のティールにとってのウォズニアックは、マックス・レフチンだ。この二人は、スタートアップの成功になくてはならない基本条件を体現している。つまり、すぐれたビジネスセンスとすぐれたテクノロジーが完璧に共生していることである。多くのスタートアップが失敗するのはまさにこの点で、ビジネスかテクノロジーのどちらかに片寄りすぎている。それでは市場が求めるすぐれた製品をつくることはむずかしい。

プログラマーとしてのレフチンの傑出した能力なしには、ペイパルは爆発的な勢いでユーザーを増やすことはできなかっただろう。CTOとして彼はすぐれた詐欺防止アルゴリズムを開発し、2002年にMITテクノロジー・レビュー誌が選ぶ最近35年間のトップ100イノベーターの一人に名を連ねた。

ビジネスパートナー選びは結婚と同じ

レフチンは天才的なプログラマーだっただけではない。ペイパル時代の彼のまわりには、昼も夜もシフト制で、製品チームが出したアイディアを速攻でソフトウェアに落とし込んでいく開発者が集まっていた。

「もっとも重要な最初の問いは、誰と創業するかです。ビジネスパートナーの選択は結婚のようなもので、もめごとは離婚と同じようにやっかいですから」

ティールはそう語る。結婚生活と同じように、スタートアップの場合にも、ロマンチックな「ハネムーン」の後には、難題だらけの山あり谷ありの灰色の日常が待っている。

そこでティールは、創業者には「共通の前史」があることが望ましいと述べている。そうでないと、スタートアップはギャンブルになる。「うまく折り合っていけるよい社員」が必要だが、「長期的に全員が同じ目標を追うことができる組織も必要」なのである。

官僚的な組織を毛嫌いするティールは、大企業のCEOには向いていない。彼にとっては、スタートアップは「確実にコントロールできる最高のプロジェクト」なのだ。

トーマス・ラッポルト(Thomas Rappold)
起業家、投資家、ジャーナリスト
1971年ドイツ生まれ。世界有数の保険会社アリアンツにてオンライン金融ポータルの立ち上げに携わったのち、複数のインターネット企業の創業者となる。シリコンバレー通として知られ、同地でさまざまなスタートアップに投資している。シリコンバレーの金融およびテクノロジーに関する専門家として、ドイツのニュース専門チャンネルn-tvおよびN24などで活躍中。他の著書に『Silicon Valley Investing』がある。
(撮影(ピーター・ティール)=Manuel Braun)
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