ネット銀行には物理的な支店は存在しない。だが、口座には必ず支店名が付けられている。金融ビジネスとテクノロジーに詳しいベンチャー投資家の山本康正さんは「銀行法が時代に追い付いていない。これからデジタルバンクになれば、こうした支店名も不要になり、銀行を取り巻く環境も激変するだろう」という――。

※本稿は、山本康正『銀行を淘汰する破壊的企業』(SB新書)の一部を再編集したものです。

新鮮なイチゴ、ギター
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銀行法が時代に追いついていない

なぜここまでスマホが普及しているのに、スマホ完結型のデジタルバンクが生まれないのでしょう。ネットバンクは実現できているのにです。

金融サービスをスマートフォンで行うことは、テクノロジー的には難しいことではありません。ただし、銀行の運営には銀行法という縛りがあること。そしてこの銀行法が時代に追いついてないのです。

いわゆるネット銀行を見ると、銀行法がいかに銀行のサービスを縛り付けているかが分かります。ネット銀行とデジタルバンクとの違いについて、まずは紹介します。

いわゆるネット銀行は、既存のリアルな銀行をインターネット上に置いただけです。つまり、サービスや仕組み(システム)も、言ってみれば今の銀行の延長線上のサービスです。

そのためネット銀行のサービスを拡充しただけでは競争力を持つ未来の金融サービスにはなりませんし、GAFAをはじめとするフィンテックベンチャーに競争優位性を持つことは難しいでしょう。

使ったことがあればご存じかと思いますが、ネット銀行では何だか愛嬌のある支店名が出てきます。たとえば住信SBIネット銀行はイチゴ支店やキウイ支店、セブン銀行はマーガレット支店やフリージア支店、ローソン銀行はおもち支店やチョコ支店、楽天銀行はジャズ支店やロック支店、PayPay銀行はすずめ支店やはやぶさ支店などとなっています。口座を開設する際には、選ぶか、どこかの支店名がおそらく自動で振り分けられることでしょう。

冷静に考えれば、ネット上の銀行なのですから、支店の意味はありません。しかしここで、銀行法や、過去のシステム仕様の縛りがあるわけです。「支店を設けなければならない」。まさにレガシーです。

支店はあくまで一例ですが、他にも既存の銀行法にのっとったばかりに、せっかくネット上の銀行なのに分かりづらい、使いにくくなっているケースがあります。

ネット銀行よりデジタルバンクの方が安全

セキュリティの観点から見ても、スマートフォンによるデジタルバンクの方がネット銀行よりも安全性が高いです。ネット銀行はパソコンでの利用のため、複数人が使用する可能性が高いこと。

アカウントならびにログインパスワードを入力する仕組みでも、パスワードが安易であったり、定期的に更新するなどの配慮をしていないとハッカーなどに見破られ、アカウントを乗っ取られる可能性があるからです。

一方、スマートフォンであれば、これは銀行のATMでも導入していますが、指紋や顔などの生体認証でログインできます。

このような旧来のネット銀行とスマホを標準としたデジタルバンクの設計の違いは大きいです。既存の銀行が提供しているスマートフォンのアプリのレビューを見れば一目瞭然です。

確かにスマートフォンで使えるようにはなっていますが、いま紹介したようにネット銀行とデジタルバンクの違いを理解していないため、ネット銀行のサービスをそのままスマートフォンに移行しているからです。その結果、ユーザーにとっては満足のいくサービスになっていない。

言い方を変えると、デジタルバンクであれば行えるサービスが、利用できない。その結果、GAFAのようなテクノロジーカンパニーに、次々とサービスを奪われていくのです。