子供を「上流ロード」に乗せるには、なにが有効なのか。「プレジデント」(2017年2月13日号)では、子育てをめぐる13のテーマについて識者にアドバイスを求めました。第3回のテーマは「進路」です――。

哲学は、どこか後ろめたいところのある学問

哲学は本来、役に立たないものです。他の学問が自他の幸福を求める「功利主義」であるのに対し、哲学は人類の幸福よりも真実を求めます。ソクラテスが処刑されたのも、真実を求めることがポリスの幸福につながらなかったからです。

スティーブ・ジョブズのほか、決済サービス「ペイパル」創業者のピーター・ティールも哲学科出身。(時事通信フォト=写真)

会社は、既存の枠組みの中で営利を追求するものですから、「弊社は自然環境に配慮しません!」と宣言するわけにはいかない。まして、「脳は物質なのに、なぜ意識はあるのか」と哲学的な問いを常に考えていたら仕事は進みません。人生にとっては、切実で真剣な問いなんですけどね。

でもまれに、会社では優秀な社員でありながら、哲学的な問いを考えてしまう人たちがいます。彼らは、私の主宰している「哲学塾」を訪ね、カントやヘーゲルを学ぶことでバランスをとっているようです。哲学は、どこか後ろめたいところのある学問なのでしょう。

画期的な商品を生むことはありうる

さて、「IT長者に哲学科卒が多いのはなぜか」という質問ですが、枠を外して物事をみる哲学の性質が、画期的な商品を生むことはありうるでしょう。ちょっとありきたりな答えですが。哲学科出身で成功した人というのは、米国に多いのではないでしょうか。

ヨーロッパでは、伝統的に哲学の学問的地位が高く、実学は低い。哲学とビジネスとの距離が遠いのです。一方、米国では「成功することこそが神の愛を受けている」という価値観がありますから、学問とビジネスの距離が近い。

さらに、米国で主流の分析哲学はどこまでもドライにロジカルに分析する。たとえば「約束を守るべき」と私たちは思い込んでいますが、不利な約束は守りたくないという心理も自然です。