私ぐらいの年代では、昔の人気作品とその続編ばかりを楽しみにしている人がかなりいます。たとえば、『キン肉マン』や『ドラゴンボール』の関連作品だけを追いかけている中年、『宇宙戦艦ヤマト2199』のようなリバイバル作品や、『スターウォーズ』シリーズの新作を楽しみにしているような中年です。彼らは、ジャンルの新しいところを開拓していくだけの情熱や甲斐性を失っていますが、昔なじみの作品はいまでも愛しています。どう見ても中年をターゲットにしているとしか思えない、『機動戦士ガンダム』や『新世紀エヴァンゲリオン』に関連した高価な関連グッズを買う人もいます。

このような保守的で、時計の針が止まってしまったかのような愛好家の姿は、新しいコンテンツにも目を通している若い愛好家からはまったく褒められないものでしょうし、反面教師にしたいと感じる人もいるに違いありません。

中年期のアイデンティティ・メンテナンスにも有効

ですが、サブカルチャーを心底楽しんできた青春時代が終わって、もっと他のことにも目を向けなければならない年頃になってからの落としどころとしては、いちばん無理がありませんし、そういった道を選んだからといって、人生の選択を誤っているとは私には思えません。むしろ、自分にとって本当に大切なコンテンツに的を絞ることで、最小の労力で自分の趣味の方面のアイデンティティをメンテナンスし続けられているとも言えます。これは、アイデンティティを確立した中年だからこそできる強みです。

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それと、同年代のおじさんおばさんが集まって過去のサブカルチャー趣味の思い出話をするのは、たいへん趣深く、いまの流行について話し合うのとはまた違った楽しさがあります。『銀河英雄伝説』のせりふや、『北斗の拳』の名シーンなどを懐古しておじさんおばさんが盛り上がっているさまは、「若者」から見れば年寄りじみていて、みっともないものと映るかもしれません。しかし、普段は趣味生活からは遠ざかっているおじさんおばさんにとっての懐古的な思い出話は、若者時代に自分たちが愛して選んできたアイデンティティを指差し点検する貴重な機会です。趣味方面の「これって私」「俺ってこういう人間だ」を仲間と一緒に話し合えば、若者時代に愛して自分自身のアイデンティティの一部ともなった、かけがえのないコンテンツについて思い出が鮮やかによみがえります。アイデンティティがぐらつきかけた局面では、こういうことが案外救いになったりもするので、中年期以降のアイデンティティのメンテナンスの一手段として覚えておくと良いでしょう。