ブランドや看板の価値を守り、生き残るために、あえて変える。いちばん大事なものを変えないために、変える。繁栄を続けている老舗企業は、必ずそれを実践しています。声優とスタッフを2005年に刷新したり、大人向けの目配せを施したりというのは、老舗の和菓子屋や歌舞伎役者や噺家がその看板を守り、これからも繁栄していくための精進とまったく同じ。むしろ顧客をつなぎとめるための努力です。
そもそも、1969年から96年まで連載された『ドラえもん』の原作マンガですら、初期・中期・晩期で作風がまったく異なります。70年代の子供と90年代の子供では感じ入るツボが違う――それにF先生が気づいていなかったはずはありません。
「今年は特に傑作だった」という話ではない
ちなみにTVドラは、2017年7月にもプチリニューアルが施されています。監督とチーフディレクターが交代し、背景が水彩調からポスターカラー調になりました。『ドラえもん』は今も、時代に合わせて現在進行形でアップデートを続けているのです。
そうしたアップデートは『ドラえもん』の最も大切な部分を損なうものではありません。「ブランドの価値は変わっていない」のです。古いのに、新しい。新しいのに、古い。それは今回の題名に、ロバート・ルイス・スティーヴンスンによる児童向け冒険小説の古典『宝島』を冠していながら、内容は非常に現代的なSFであるという点にも象徴されています。
『ドラえもん』が長きにわたり、ここまで日本人に愛されるのは、長い伝統と確立した名声があるにもかかわらず、それらにあぐらをかいていないからです。常に自己を研磨し、精進し、工夫し、変化を恐れず、しかし大切なものは変えない。愛されて当然です。
『のび太の宝島』の絶好調スタートは、決して一日にしてならず。「今年の宣伝が良かった、今年のタイアップは効果的だった、今年は特に傑作だった」といった近視眼的な話ではありません。長年にわたる蓄積の結果であり、その功績に与えられた勲章なのです。
編集者/ライター
1974年、愛知県生まれ。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。著書に『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)。編著に『ヤンキーマンガガイドブック』(DU BOOKS)、編集担当書籍に『押井言論 2012-2015』(押井守・著、サイゾー)など。