最も手ごわい競争相手は店内の物販

セブン銀行に「競合」はいるだろうか。銀行が顧客だと理解していないと、競合は他の銀行と考えてしまいがちだ。しかし前述のように、銀行は顧客であって競合ではない。

ではいったい誰が競合なのか。他のコンビニにあるATMだとか、ネット銀行だとか、クレジットカードとか様々な競合が候補として挙げられよう。それはそれで間違いではない。しかし、セブン銀行のATMにとって最も手ごわい意外な競争相手は、実はセブン-イレブン店内の物販事業である。

セブン-イレブンのオーナーの立場で考えるとわかりやすい。店内にセブン銀行のATMを置くということは、それだけ物販スペースがなくなることを意味する。オーナーにしてみれば、同じ床面積で物販事業によって得られる収益とATMを置くことによって得られる収益とを天秤にかけることになる。ATMを設置する面積に商品を置いて販売したほうが、より多くの収益があがると考えれば、オーナーはATMを設置しないだろう。

実際に、セブン銀行が事業を開始した当初、ATMの利用者が少なく、設置するメリットが薄いため、ATMを返却したいと申し出たオーナーがいたと言われている。セブン銀行のATMは、銀行の支店にあるATMとは比べ物にならない厳しい競争環境に置かれているのだ。

わずか2年半という短期間で黒字化

セブン銀行は、まず利用者数を増やし、提携銀行からの手数料収入をできる限り得ることが必要となる。そうしないと、オーナーに支払う原資すら確保することができない。

できてばかりの銀行に知名度があるわけではない。まずは知ってもらわなければ始まらない。もちろんターゲットはセブン-イレブンに来る顧客だ。そこで、レジでチラシを配布するアイデアが出されたが、これは法的に許されていない行為と却下されてしまう。

宮永博史『ダントツ企業「超高収益」を生む、7つの物語』(NHK出版新書)

銀行員は支店の外でチラシを配ることを禁じられているのだ。セブン銀行においては、ATMの設置されている部分のみがいわば支店となる。ATMの上に人が乗ってチラシを配布するのであれば法的には問題ないが、もちろん現実的な方法ではない。

当初は苦労の連続であったが、セブン銀行の努力もあり、次第に提携金融機関が増えていった。また、すべてのセブン-イレブンにATMが設置されるようになるにつれて、少しずつ利用者も増えていった。

そして日に日にセブン銀行を利用する顧客は増え、銀行業界の予想に反し、セブン銀行はわずか2年半という短期間で黒字化を達成したのである。

新刊『ダントツ企業』は、セブン銀行のように圧倒的な「超高収益」を生む企業に注目して、「なぜ儲かるのか?」を解説している。興味のある方は参考にしていただければ幸いだ。

宮永博史(みやなが・ひろし)
東京理科大学大学院教授
東京大学工学部卒業。MIT大学院修士課程修了。NTT、AT&T、SRI、デロイトトーマツコンサルティングを経て2004年より現職。コンセプト創造、開発・プロトタイピング、ビジネスモデルなどの講義を担当。主な著書に『顧客創造実践講座』(ファーストプレス)、『理系の企画力』(祥伝社新書)、『世界一わかりやすいマーケティングの教科書』(中経出版)、共著に『技術を武器にする経営』(日本経済新聞出版社)など。
(写真=時事通信フォト)
関連記事
なぜコンビニ、セブン銀行、セブンプレミアムを思いつけたか?
ファミマ社長が3週間レジ打ちをした理由
ファミマの大ヒットラーメン「何回食べても客が驚く」
ビル・ゲイツ「銀行は将来必要なくなる」
コンビニを支える"偽装留学生"のカラクリ