【ケース2】76歳 男性 妻と2人でゲートボールが趣味。現在、脳出血で車いす生活。天気がいい日は、車椅子で妻のゲームを見て楽しむ。しかし数カ月前、「妻に男がいる」と騒ぎ始めたため受診。話の内容は「おい(おれ)の友達が、ショットの時にばあさんの後ろから抱きつきよっ」「あいとできとっと(あいつとできている)」のこと。妻に様子を聞くと親切な(夫とも)知り合いのおじいちゃんが、後ろから手を握って打ち方をよく教えてくれるとのことです。

この様子を見て、おじいさんが曲解したのが始まりでしょうと、私の診断を説明したところ、おばあさん(妻)は事情を理解して対応されたので、ほどなくおじいさんの妄想は消失しました。

後日、浮気相手と疑われた友人は、その話を聞いて憤慨しきりだったとのことです。

おばあちゃんは金銭欲が強い!?

女性の場合には、「物盗られ妄想」が多くなります。これは、認知症の記憶障害をベースに生じる被害妄想の一種と考えられています。生じるのはほとんどが女性で、犯人は同居の家族(それもほとんどが嫁)という興味深い特徴があります。

【ケース3】82歳 女性 夫は5年前に亡くなり、現在長男夫婦と孫2人の5人家族。最近「財布がなくなった。あの嫁が犯人のようだ」と隣町に住む長女に訴え始め、同居の長男が心配して連れられてこられました。診察後、物盗られ妄想の可能性を長男に説明すると「先生その話、是非、女房に話してもらえませんか」と、懇願します。

来院した妻に説明すると、こう話しました。

「この家に嫁いできて40年、耐えがたきば耐え、忍び難きば忍んできたばってん、まさか泥棒呼ばわされようとは。実家に帰ろうと思うとりましたが……」

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私の説明には納得した様子。横で聞いていた夫もほっとしていました。

「先生、そういうことならわかりました。ただひとつ、ききたかことのあります」と切り込んできます。

「ばあちゃんは、若い頃から根性腐れやったけど、そいが(それが)泥棒騒ぎと関係あっとでしょうか?」
「そ、それは関係はないと思うけど……」

思わず私は言葉を濁してしまいました。一瞬にして長年にわたるすざまじい嫁姑関係を、のぞいたような気がしました。