高齢者になり、認知症などを患うと、「妄想」をいだくことがあります。興味深いのは、性別によって妄想の種類が異なる点です。男性は「妻が浮気している」という色欲がらみ、女性は「嫁に財布を盗られた」という物欲がらみが多いのです。国際医療福祉大学の原富英教授が、その特徴と対処法を解説します――。
年齢や性別によって一定の傾向がある
2025年には団塊の世代が全員、75歳以上の後期高齢者となり、日本は5人に1人が後期高齢者という人類が経験したことのない「老人大国」となります。老人と言えば穏やかな老後を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、実際には記憶力の低下などにより「妻が浮気をしている」とか「嫁が財布を取った」などという「妄想」をいだく人も増えてきます。今回は番外編として、この妄想について解説したいと思います。
妄想には年齢差・性差があります。なぜそうなるのかについては諸説あり、まだその原因は突き止められていませんが、私の臨床経験からも、年齢や性別によって一定の傾向があることは確かだといえます。
まず年齢差ですが、老人の妄想は「現実感(了解可能性)」が高くなります。これは青年期に発症しやすい「統合失調症」などの妄想が荒唐無稽であること比べて、大きく異なります。例えば「隣のばばあが毒入りの煙を煙突から吹き込んでくる」とか「嫁が財布を盗む」といったものが多いのです。
じいちゃんたちは嫉妬深い
性差では、男性のほうが「嫉妬妄想」が多いように思われます。「ばあちゃんに男がいる」といった内容です。妄想が行動化すれば、ばあちゃん(妻)へのDV(ドメスティック・バイオレンス)が生じることもあり、しばしばご家族が相談に来られます。臨床で実際にあったケースを挙げてみましょう。