なぜうつ病の発見は遅れるのか
家族に引きずられるように、私のもとを初めて訪れた銀行員の男性は48歳でした。自殺念慮に巻き込まれた重症の「うつ病」と診断しましたが、治療には拒絶が強かったため、少量の抗うつ剤とともに休養をすすめ、「1週間後の再来時でも症状改善がなければ入院を」という合意を取るのが精一杯でした。
家族にも自殺の危険を十分に説明し、その場合の対処法など説明して終了。その1週間後、男性の妻から「夫は亡くなりました。あっという間でした。ありがとうございました」と短い電話がありました。主治医としては「何かもっとしてあげられることがあったのではないか。もう少し早く受診してもらえれば……」と自問する日々が続きました。
なぜうつ病の発見は遅れるのでしょうか。その要因は患者側の理由、医師側の理由、そして両者に共通する理由の3つにわけることができます。早期発見にはこれらを知ることが重要です。
両者に共通する理由
まずは両者に共通する理由からです。それは、うつは「気が弱いからなる」という根性・性格説が根強いということです。極端には「病気ではない」と考える人もいます。その結果、本人や家族、同僚だけでなく、診断を下すべき医師でさえ、「少し疲れているだけでしょう」という説明や「しっかりしなさい」という励ましに陥りやすいようで、結果として発見や治療が遅れます。
次いでうつ病の初期には、抑うつ気分や興味・関心の低下などの中核症状に先行して、「頭が痛い」「胸やおなかの周りが気持ち悪い」「だるい」「痛い」などの身体の違和感や不快感が現れると言われています。ちなみに抑うつ気分とは、いわゆる憂うつとは違い、ひどく不快で暗い気分です。患者さんのなかには「崖っぷちにいるような気分」と表現する人もいました。また子供、女性、高齢者のうつは、それぞれの年齢特有の、非定型的な症状があり、「まさかうつだったとは」と周囲がびっくりすることもあります。
うつは気分の障害だから、まさか体の不調が先行して現れるとは考えないようです。これらの身体症状が強ければ、一般科(内科など)へと足を運ぶのは当然でしょう。ここで医師側の無理解が重なると事態は悪化していきます。詳しくは後述します。