1年経過すると約半数は服薬をやめてしまう
精神科では、もう少しで安全域に入ると思われるのに、薬をやめてしまう患者さんがいます。こうした事例は少なくないようです。名古屋大学病院老年科の梅崎らの報告によると、長期間服用が必要な抗認知症薬ドネペジル塩酸塩(商品名アリセプト)では、1年後は約半分以上の患者さんが薬の服用をやめていたそうです。
なぜ薬をやめてしまうのか。これは「病気だから薬を飲む」行為が、いつしか「薬を飲んでいる限り、病気である」という考えに変わってしまっているからではないでしょうか。「病気だから薬を飲む」という発想が、逆転しているわけです。こうした逆命題は、高校数学で「逆は必ずしも真ならず」と教わりました。これがよく当てはまります。必ずしも「薬を飲んでいる限り病気は治っていない」というわけではないのです。
さて、さまざまな薬は、服用期間によって、やめられる薬、当分やめないほうがいい薬、半永久的に必要な薬の3種類に大別されます。
まず「やめられる薬」の代表例は抗生物質です。抗生物質は、原因(細菌など)が消失すればやめられます(医師は投薬を中止します)。またビタミン剤やホルモン剤などは、一時的な不足を補うため、数日から数週間の服用期間が標準です。
2番目の「当分やめないほうがいい薬」では、精神科や生活習慣病の薬があげられます。慢性化しやすく数年~数十年かけて付き合っていく病には、悪化や再発予防のための最小限の薬を服用し続けるほうがいいと考えられています。これは専門家の中ではほぼ意見が一致しています。
うつ病のように回復に月~年単位が(回復は三寒四温だよね、と説明する精神科医もいます)必要で、この間に再発しやすい特徴を持つ病気には、減薬しつつ、数年間は当初の3分の1~4分の1程度の量で服用することを私は勧めています。
また健康診断で「コレステロールが高いですね」と注意を受けた経験のある人がいるかもしれません。LDL(悪玉)コレステロールは、動脈硬化の危険因子のひとつとされており、年をとるにつれて分解力などが低下し増加していきます。生活習慣の見直しなどで改善がみられない場合、現在はLDLコレステロールの体内合成を阻害する薬を用います。ただし、至適な血中濃度を維持するためには、ほぼ一生、この薬を服用することが必要になります。服用をやめると、ほとんどの人が再び異常値まで血中濃度が上がってしまうからです。
このように慢性疾患モデルの病気は、薬によって悪化・再発を防ぐことは重要な対策のひとつであり、食事療法などの生活習慣の改善により減薬はできても、薬が不要になると考えるのは危険が大きいと思います。
3番目の「半永久的に必要な薬」は、何らかの原因で自己免疫性疾患やホルモン失調症(甲状腺機能失調症など)、パーキンソン病などの神経伝達物質が不足する疾患にかかった患者さんは、自然治癒でもしない限り、半永久的に少量のステロイド剤やホルモン剤などの補充が必要です。この補充療法によりほとんど健康な人と同じように活動ができます。
この2番目と3番目の薬の使い方は、連載第1回目の説明を引用すれば「(薬を服用しつつの)寛解をめざす」というものです。