ひとつ目は診療時間の制約です。全ての副作用を説明していると、1日数人の患者さんしか診ることができない可能性があります(日本の一般開業医の1日の平均外来患者数は40人前後です)。

ふたつ目はすべてを説明すると、非常にまれな致死的副作用などを怖がってしまい、患者さんが服用しないのではないかと危惧するからです。

では私はどうしているか。

薬品情報書は副作用の出現頻度を、主に4段階で表示しています(表参照)。5%以上の副作用は、最低20人に1人の割合(多い副作用は、3人に1人出る印象)で生じる可能性があるということです。これは説明しなければいけないでしょう。ただし5%以上の副作用は、生じても致命的なものは少なく(そうであれば、その薬は開発段階で日の目を見ないでしょう)、薬の量を減らしたり中止したりすることで消失するものがほとんどです。

自分の薬を「自家薬篭中」の「薬」にする

そこで私は、5%以上に生じる可能性のある副作用(精神科の薬であれば、軽い眠気・めまい・ふらつき・吐き気など)について、質問を受けつつ6~7個を説明します。加えて耐えられないような副作用(高熱や全身の薬疹など)を1~2個説明し その症状が出た場合はすぐに連絡するよう連絡先を伝えておきます。

それから軽い副作用は少し我慢していくと耐性(慣れ)ができ、服用を継続できること、先ほど述べた2番目、3番目のタイプの薬の中には、急にやめると不愉快な退薬症状(いわゆる薬切れ)の症状が出やすいこと、眠気や注意散漫が生じる危険があるので車などの運転は避けることなどを付け加えます(これは精神科の薬に特有の注意事項でもあります)。こうした方法を採れば、患者さんは副作用が生じても慌てずに冷静に対処できるようになります。

このように主作用・副作用も含めた薬の「飲み心地」についてやり取りをしつつ説明し、服薬の合意をとるのです。この私の実践は先ほど述べたSDMの概念に近いと自負しています。

結局、患者さんは、副作用も含め医薬品の特性を知り、双方向(SDM)に医療者と話し合い、まさに自分の薬を「自家薬篭中」の「薬」にすることこそ、服用する薬についての大切な態度といえるでしょう。

次回は、私の精神科での臨床経験から、「じいちゃんの妄想、ばあちゃんの妄想」についてお話します。

原 富英(はら・とみひで)
国際医療福祉大学 福岡保健医療学部 精神医学教授
1952年佐賀県生まれ。九大法学部を卒業後、精神科医を志し久留米大学医学部を首席で卒業。九州大学病院神経科精神科で研修後、佐賀医科大学精神科助手・講師・その後佐賀県立病院好生館精神科部長を務め、2012年4月より現職。この間佐賀大学医学部臨床教授を併任。
 
(写真=iStock.com)
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