「うつは心の風邪」とも呼ばれます。これは国や製薬会社がうつ病への誤解を解くため、2000年頃から啓発キャンペーンを繰り返してきた結果です。「特殊な病気」という誤解は解けましたが、一方で「風邪のように治せる」と安易に考える人も増えてしまいました。うつ病は本当に「治る」のか。国際医療福祉大学の原富英教授が解説します――。

「治る」の3つのモデル=3つの治るとは

うつ(病)にかかったのではないかと心配して、私のもとを訪れる患者さんは、ほとんど例外なく、こう聞いてきます。「先生、治りますか?」。二分法的思考でお答えすれば「うつ病は治りません」となります。誤解しないでください。要は「治る」の意味が、社会一般に理解されている「治る」と「うつ病が治る」では、大きく異なるからです。

うつ病は風邪のように薬を飲んで安静にしておけば、数日で「治る」という病気とは大きく異なる。(写真=Gon/アフロ

そんな時私は次のように答えることにしています。

「病気は数万種類もありますが、治り方は基本的に3種類しかないんです。1つ目は、風邪などのモデル。自然にもしくは基本的な治療で原状復帰できるもので、いわゆる「治る」ものです。

2つ目は胃がんなどの摘出モデル。転移などを除けば、外科手術でとってしまえば治ります。たとえば胃を全摘してしまえば、胃がんは絶対に再発しません。

最後の3つ目は、糖尿病・高血圧などのお付き合いモデル。医学用語を使えば『慢性疾患』のモデルです。節制を続ければ、自覚的にも医学的予後(平均寿命と言い換えてもいいでしょう)も健康人とほぼ変わらなくやっていけます」

こうした説明をしたうえで、「うつは、第3のモデルに近いんですね。症状が軽くなってきても、用心しないと再発しやすい。少なくとも数年は付き合っていく必要があるんですよ……」と続けます。

ほとんどの患者さんやその家族は、第1のモデルを頭においているので、最初は困ったような表情を浮かべたり、きょとんとされたりします。

「寛解」と「治癒」

医学的な言葉を用いると、うつ病は、症状がなくなり治療をする必要が無くなった状態でも「寛解」という用語が用いられます。「寛解」とは、一時的にまたは継続的に症状が軽減~消失すること、わかりやすく言えば「症状が落ち着いて安定した状態」といえます。精神疾患や白血病などの再発の危険のある病気治療に使用される概念です。

症状がほぼ完全に消失している状態を完全寛解、一部症状を残しているが生活(生命)などの差し障らない状態を部分(不完全)寛解と呼ぶこともあります。いずれにしろ、私は「このまま回復する可能性もあるし、再発する可能性もあるので、注意しましょう」とアドバイスします。前述の3のモデルに近い概念ですね。対比される用語に「治癒」(完全に治った状態)があります。これは1もしくは2のモデルに近いでしょう。