このように次第に軽快するにつれ、原因を探し始め、「心がけが悪かった」「気合(根性)が入っていなかった」「あの上司さえいなければ……」などのストーリーを作ってしまうのです。「今度は失敗しないぞ」と無理やり自己を鼓舞しても、再発は防げません。やっと2~3度目の再発後に、うつとはお付き合いしていくものだと身に染み、ストレス対処法や休養の取り方などに真剣に取り組む方が少なくありません。

しかし何度再発しても、心の風邪論や気合論、環境悪論の一辺倒で解釈される方もいます。こうした患者さんには、主治医としては頭を抱えつつ、「風邪もこじらしゃ肺炎になる」と、つぶやくのです。

元に戻らず新しい自分になる

私の尊敬する中井久夫医師(元神戸大学医学部精神科 現名誉教授)は「元に戻りますか(治りますか)?」の質問に「こんな病気になった元の自分に戻ってどうするの?」と投げかけたそうです。深い含蓄のある言葉ですね。

そうこうしているうちに、「うつは治りますか」という質問は消え、新しい自分を見出し始めて、やっと治癒に近い「お付き合いモデル」になじんだ寛解像があらわれます。こうなると「もう大丈夫なようだね」という温かく穏やかな感覚が主治医と患者さんの間に流れ始めるのです。

これまで説明してきたように「治る」の意味を理解し対処することが、うつ病の治療においては、とても大切なことなのです。

次回は「心と脳とお薬」について解説したいと思います。(本連載は隔週金曜日に掲載。次回は12月8日の予定です)

原 富英(はら・とみひで)
国際医療福祉大学 福岡保健医療学部 精神医学教授
1952年佐賀県生まれ。九大法学部を卒業後、精神科医を志し久留米大学医学部を首席で卒業。九州大学病院神経科精神科で研修後、佐賀医科大学精神科助手・講師・その後佐賀県立病院好生館精神科部長を務め、2012年4月より現職。この間佐賀大学医学部臨床教授を併任。
 
▼編集部おすすめの関連記事
"過労うつ"も対象内「障害年金」の使い方
(写真=Gon/アフロ)