着実に忍び寄る「老後崩壊」。もはや日本人の9割にとって他人事ではない。「下流老人」と「ハッピー老人」をわける境界線はどこにあるのか。今回は、30代での無理がたたって、うつ病を発症し、現在は生活保護を受けているという60歳のケースを紹介しよう――。
20代は気合で乗り切ってた
「健康が大事なんて耳にタコができるほど聞いているけど、今20年前に戻れるなら、すぐに健康診断に行ってると思うよ」
タバコを咥えながら、記者にそう答えた稲葉洋二さん(仮名・60歳)。着込んだジャンパーの袖から覗く右手の手のひらには無数の傷が付いている。稲葉さんのキャリアは、この国の高度経済成長期のあとに訪れたモータリゼーションと共にあった。稲葉さんは1956年、沖縄本島で生まれた。那覇市内の偏差値57の普通科高校を卒業後、進学はせず飲食店のアルバイトなどで職を転々としたあと、25歳で上京した。きっかけは急激に拡大する物流市場と、それに伴う長距離トラック運転手の求人数の増加だった。
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