着実に忍び寄る「老後崩壊」。もはや日本人の9割にとって他人事ではない。「下流老人」と「ハッピー老人」をわける境界線はどこにあるのか。今回は「子ども3人無収入」という状態でも、老後に向けて前向きな計画を立てられたという63歳のケースを紹介しよう――。

妻を亡くし、子ども3人と4人暮らし

東京近郊に住む和田憲一氏(仮名・63歳)は大手機械メーカーを60歳で退職後、再雇用契約により関連会社で働いている。妻を12年前に亡くし、成人した長男、娘2人の4人暮らしだ。「退職金は2600万円、再雇用時の月給は25万円。現役時代の2分の1程度です。預貯金は約5000万円ほどあります」

同年代の平均2000万円に比べ多少余裕のある預貯金額といえるが、和田氏には大きな悩みがある。

「長男は仕事が続かずフリーターです。下の娘2人は心の病で、仕事に就けません。子どもたちの将来を考えると不安に襲われ、こつこつと節約して貯蓄に励みました。65歳を過ぎても働くつもりです」

築50年でボロボロだった持ち家が…

わが子の先々の暮らしを心配するのは当然の親心。預貯金は子どもたちの将来の生活資金にと考えていた。親の代からの持ち家は築50年、ぼろぼろで朽ち果てそうだという。子どものことや修繕費など10年後、20年後のことを考えると鬱々とする日々だったが、かかりつけの医師から娘2人が障がい基礎年金を受給できると教えられ、申請した。障がい基礎年金2級に該当し、年に78万円。2人分だと月額で13万円になる。

「人並み以上の贅沢をしなければ、自分の年金を合わせると老後をどうにかやっていけそうです。障がい年金を受給しない長男は、節約して一生懸命協力するからと言ってくれ、将来の落ち着いた暮らしが見えてきました」

老後の展望が開け、子どもたちが住みつづけられるよう家を建て直す決心もついた。2000万円ほどかかる費用は自己資金でまかなう。子どもたちは住宅展示場を見学し、新しい家の間取りなどいろいろ話し合っているという。

「これまでは料理をつくる気にもならない汚い台所でしたが、娘たちはお金を使わず、美味しいものをつくったり、部屋をきれいに飾って快適に暮らそうと張り切っています。子どもたちにとって、親の私が働けないことを許容したということで、心穏やかに暮らせるようになったことはなによりです」