――酒に強い人よりも弱い人のほうが健康リスクは高い、ということでしょうか。

先の調査で示されたように、同じ量を飲めば弱い人のほうがリスクは高いといえます。とはいえ、実際には酒に強い人はたくさんアルコールを飲んでしまいがちで、そこが問題になります。

前編で、体内に酒が入ったとき、アルコールをアセトアルデヒドに分解する主な酵素としてADH1Bを紹介しました。じつは、大量に酒を飲んだ際にはADH1Bだけではなく、「ミクロソームエタノール酸化系(MEOS)酵素群」も働くようになります。このMEOSのなかの中心的な酵素であるCYP2E1は、アルコールの血中濃度が高いときに登場し、ADH1Bより速いスピードでアルコールを分解します。すると、酒に強い人は「まだ酔っていない」と感じて、余計に酒量を増やすことになりがちです。

酒に強い人は、基本的にはアセトアルデヒドを分解するALDH2の働きが強いんですが、酒量が多すぎると分解が間に合わなくなる。その結果、アセトアルデヒドの血中濃度が上がって、体にたまっていくんです。アセトアルデヒドは人体に有害ですから、アルコール依存症やがん、肝炎、肝硬変、膵炎(すいえん)などの病気になる確率が高まります。

少しずつ作られるアルコールへの「依存」

――まわりには「毎晩飲んでいる」という人もいます。日中は普通に仕事をしているのですが、こうした人はアルコール依存症なのでしょうか。

アルコールへの依存は、少しずつ作られていくんです。1杯でじゅうぶんだったのが2杯、3杯と、量に満足できなくなって、ないと欲しくなる。飲酒が習慣になっていて、夜になるとなんとなく飲みたくなって、毎日飲み過ぎてしまう人は注意したほうがいいですね。

――そういう人は、どうしたらいいんでしょうか。

まずは、自分がどのくらい飲んでいるかを把握することです。毎日飲んだ量を書きとめるようにするだけでも違います。最近は「減酒外来」といって、飲み過ぎる人の酒量を減らす外来もやっています。完全な依存症で断酒が必要というほどではないけれど、健康に問題が出てきた人などの指導ですね。患者さんには自分の飲酒量をまず把握してもらい、それから目標を定めて酒量を減らしていく指導をします。

また、近々、アルコール依存症の人のための治療薬も発売されそうです。脳に働きかけて酒を飲みたいという欲求を抑える薬で、治験では効果があったようです。