13■つけ込むスキを見つける“からめ手”営業マン

もし、あなたの会社が売り込み先の商品を購入する顧客でもあったらどうするか。特にIT業界ではどの会社も情報化を進めるため、ありがちな構図だ。日本IBMの場合、この売り買いの関係はまったく意味をもたない。鈴木氏がいう。

「売りと買いをミックスして商談に当たろうとする方もいれば、うちの営業から、われわれ購買に働きかけようとする方もいます。ただ、IBMには互恵取引禁止のルールがあって、売りと買いは別々に決定しなければなりません。初めから切り分けていただける営業マンは本当にありがたいですね」

相手のスキにつけ込もうとするのは、自社製品への自信のなさの表れなのかもしれない。ヴィレッジヴァンガードの場合はこんなつけ込み営業もいたという。

「うちは経験を積みながらアルバイト店長、正社員店長へと上がっていきます。同じ店長でも経験に差があります。そこでベテラン店長にNGを出された商品を、経験の浅い新人店長に売りつけようとする営業マンがいる。『押し込めばいい』という考えなのでしょうが、結局、その商品は売れ残ります。店同士の横の連絡でその営業マンがどんな売り方をしたのかすぐバレる。一時的に取引できても長続きしません」(櫻田氏)

買い手に見透かされる営業マンは淘汰されるのみ、ということだ。

14■足を使って通わない“引きこもり”営業マン

ところで、昆虫のアリは恐竜時代から存在していたといわれる。時代が変わろうとアリのように「足」を使って生き抜く営業マンもいた。最先端のIT業界においてもだ。日本IBMの鈴木氏が証言する。

「足しげく通う方、いらっしゃいます。特定の案件がなくても、『ちょっと話をさせてもらいに寄りました』と自然体で入って来られて、最新の情報を互いに交換したりする。バイヤーとのリレーションを深めるため、時間を割いて努力されているなと伝わってくる方はとても優秀だと思います」

大和ハウスの杉浦氏もいう。

「あきらめないで何回も何回も来られる方は結構おられます。『そんなに来られるんやったら、ほな1回やってみますか』となったりもする。商品そのものは扱えなくとも、別の応用ができるのではないかと研究所で試験をしてみたり、傘下のホームセンターでの扱いを検討したり。浪花節の世界ですわ。取引先が急に商品を供給できなくなったとき、いつもどおり足を運んで来られた営業マンが似た商品をもっていると、『これはちょうどいいところに来てくれはった』と、代わりにお願いすることもあります」

野球でも監督の前で一生懸命素振りを繰り返せば、レギュラーが欠場したとき、出番が舞い込み、それを足場にしてレギュラーになれるかもしれない。人間対人間の関係である以上、IT時代でも足を使う営業は不変であり、引きこもりにはチャンスは訪れない。