「ダイバーシティ」をどう言うか
知らないカタカナ語が飛び交う風潮を快く思っていない人は、英語の語彙力を高めるとよいかもしれません。知らない言葉を言われても、大体の意味は想像がつきますし、相手の英語力も判断できます。たとえば「ダイバーシティ」という言葉を「シ」にアクセントを置く人がいますが、強く言うべき音節は「バ」です。アクセントを間違えていたら、実力の察しがつきます。
言語学は言葉がどう使われるかに注目する学問で、カタカナ語が使われること自体を良い悪いではとらえません。ただ乱用する風潮は個人的に好きではありませんし、相手がわからないと思ったら日本語に置き換えてあげるべきです。その心遣いはビジネスマナーに通じるのではないでしょうか。
【紛らわしい編】――定義が曖昧なまま使うと、混乱を招く
▼それはチャレンジングだね。
「チャレンジング」は、実は「難しい」の意味しか持たない単語。よって「難しいから、やめるべき」と言いたい人もいる一方、困難なことへの挑戦を表す「チャレンジ」に引っ張られ、「挑戦しがいがあるから、やるべき」のつもりで用いる人もいる。人によって解釈が曖昧なので、ニュアンスを正確に聞き出したほうがいい。
▼社内コンセンサスはとれているの?
「集団の中での合意」を意味する「コンセンサス」を、一部の業界では「根回し」として用いることがある。だが井上さんによると、「これは誤り。おそらく『合意を得るため、陰で工作してほしい』の後半部が独立したのでしょう。また『オーソライズ』を『合意』の意で使う人がいますが、上の人が認可を与えるというのが本来の意味です」。
▼ベネフィット、期待できるの?
「ベネフィット」には、「利益」のほかに「恩恵」や「福祉手当」「慈善興行」などの意味がある。金銭的な利益も含むが、便益が付加的に得られるようなイメージが強い。ガツガツお金を儲けたいという雰囲気は消そうという意図が見え隠れすることがある。報酬の意味が強い場合は「メリット」を使うほうがふさわしい。
【勘違い編】――本当の意味は全く違います
▼うつ病だって、会社にはなかなかカミングアウトできないよね。
「告白する」「隠していた悩みを打ちあける」という意味で、一般的にもよく使われる「カミングアウト」。しかし英語で使用されるのは、ほぼ「同性愛者であることを告白する」に限った場合だ。「だから外国人に話すときは注意が必要。否定的な告白は『コンフェス』『カム・クリアー』という言葉を使用します」(井上さん)。
▼前回のコンペで負けたリベンジを果たそう。
スポーツ界から発祥し、日常用語として定着した「リベンジ」は、「挽回する」「再挑戦」の意味で気軽に使用される。しかし本来の意味は「復讐」や「報復」。相手を傷つける意志を持った、憎悪にあふれた言葉なのだ。海外では耳にする機会は少なく、ビジネスシーンでは安易に使わないほうが賢明である。
▼このプロジェクトの経緯については、君にアカウンタビリティがあるだろう。
アカウンタビリティとは、日本では会社などの組織がしたこと、することに対して「説明する責任がある」という意味で使われているが、本来の英語では単に説明するだけでなく、責任を負うところまでを意味する。アカウンタビリティがある人が説明責任を果たさなければ、クビを切られるということにもなりかねない言葉だ。