【独りよがり編】――使っていて気持ちいいのは自分だけ

▼これはまだジャストアイデアなんですが
 
「思いつき」のニュアンスを含ませて用いられる「ジャストアイデア」は、英語として「?」の表現だ。「ちょっとしたアイデア」と言いたいなら、「イッツ・ジャスト・アン・アイデア」と不定冠詞を入れる必要がある。「まさに今」を表現したいなら「ジャスト・ナウ」ではなく「ライト・ナウ」のほうが適当。

▼ドラスティックな転換が求められる
 
混同しがちな「ドラスティック」「ドラマティック」「ドメスティック」。名詞で「劇薬」を差す「ドラスティック」は、効き目が強いことから「徹底的に、思い切った」の意味。「ドラマティック」は「演劇的」、「ドメスティック」は「国内の、家庭内の」を表す。「家庭内暴力=ドメスティック・バイオレンス」は思い出す一助になる。

▼今、その分野のマーケットは全体にシュリンクしているからね
 「縮小する」の英語由来の「シュリンク」は、ほぼマーケットの話題だけに使われる。「マーケットが拡大しても『インクリースする』などとは言いません。これはカタカナ語による婉曲表現として発達したのでしょう。『危険』は『リスクがある』、『職安』は『ハローワーク』と表現したほうが、角が立ちませんから」(井上さん)。

【ぶっとび編】――本来の意味からは見当もつかない

▼景気低迷の中で、多くの企業が行ったのが組織のフラット化だ。
 
「フラット」には「平らになる」の意味があり、組織の「フラット化」は、上下関係の差異が少なくなり、効率化が進むことを示す。さらに最近ではベストセラー『フラット化する世界』の影響もあって、プロとアマチュアの差や世界の経済的格差がなくなることなど、より広い概念を表す言葉として用いられる。

▼環境保全活動と利益創出活動は二アリーイコールと言えます。
 
記号で表せば「≒」。「近似、ほぼ等しい」という意味で、英語では日常的に使われている。しかし副詞+形容詞という文に近い構成を持つこともあって、現時点では口頭で用いると戸惑う相手も少なくないだろう。親しい仲間であれば、「『ほぼ同じです』と言い換えたほうがいいのでは?」(井上さん)。

▼明日、デッドですから。
 
「締め切り」は英語で「デッドライン」。それがいつしか短縮して、「デッド」と表現する人は多い。しかし英語で「デッド」は「死んでいる」ということ。「作業の流れを示す『ワークフロー』が略された『フロー』も、意味が多すぎて理解しにくい。言いやすくなるメリットもありますが、省略するのも一長一短です」(井上さん)。

慶應義塾大学文学部教授 井上逸兵
専門は英語学・社会言語学。若者言葉、ビジネス用語、外来語など、社会の状況を反映する言葉の動向を研究している。著書に『バカに見えるビジネス語』『サバイバルイングリッシュ』『よく見るのに読めない漢字』など多数。
 
(構成=鈴木 工)
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