厳格なしきたりと独特な慣習が残る古都・京都。礼儀作法の中に潜むマナーの真髄を作家の入江敦彦が説く。

空気が読めない者は京都で生き残れない

京都人はイケズ(意地が悪いさまを表す関西の言葉)だと言われる。その根拠は表裏があるからだという。はっきり感情を顕わにしてくれたほうがすっきりするじゃないか! とか。そういう糾弾に出合うと、つくづく日本人は薄っぺらくなりにけりと哀しくなる。そしてウンザリする。

(amanaimages=写真)

けれどわたしは発言者に対してウンザリ顔を見せたりしない。なぜってそれが京都式だからだ。根拠のない言いがかりにも「そうでっか。そら、すんまへんでしたなあ」とにっこり笑うのが彼らである。すなわち世知に長けている。それは相手への思い遣りでもあり、心地いい人間関係を構築するうえでの常識。大人のマナーだ。京都人をイケズ呼ばわりするのは実社会を知らない若ゾーの言い種といえよう。

京都人は裏表があるのではない。表と裏しかないような単純な思考法をしないだけだ。あるいは言葉や行動にも綾があり襞(ひだ)があり奥行きがある。また、それを知っているので常に相手の心の綾に紛れ、襞の裏に潜み、奥に隠れた真意を探ろうと考える。