遠隔治療が禁煙治療に効果発揮する理由

医療の現場も敏感に反応した。港区にある新六本木クリニック。来田誠院長が今年1月に開院したクリニックで、精神科を専門としている。

診察室に備えられているのはデスクと椅子、診察台、最低限の医療器具と薬剤棚のみ。来田院長のデスクの上には、デスクトップパソコンが1台置いてあるだけ。オンラインで予約をし、オンラインで診療、処方薬を配送する――まさに「遠隔診療」を実践しているクリニックだ。

来田院長はこう語る。「精神科ではうつ病や不安障害など、来院を途中で止めたり、服薬を止めてしまって症状を悪化させる方が多い。通院の負担が直接病状に影響するんです。遠隔診療であれば、通院の負担を軽くすることができます。もちろん、対面が求められる治療も多いですが、遠隔のメリットは大きい」。

メリットを特に受けるのは、普段仕事で時間がとれないビジネスパーソンだ。実際に新六本木クリニックで遠隔診療を受ける患者の年代は、「20~40代のビジネスパーソンが多いですね。昼休みや仕事終わりの時間帯に受診することが多い。テレビ電話の画面の向こうに職場やオフィス街の様子が映っていることもあります」(来田氏)という。

遠隔診療のメリットが歴然と表れたのが、禁煙治療だ。禁煙治療は12週間で5回(新六本木クリニックでは8週間で4回)の診療がプログラムとして組まれている。厚労省の調査によると、およそ5割の患者が通院を継続できずに「脱落」してしまう。

しかし、新六本木クリニックでは、82%の患者が、4回目の診療まで「完走」している。通院は辛いけど、遠隔診療ならば続けられるかも――動機づけの面でも、利点はある。

このようなオンライン診療の予約、診療、薬の処方、ビデオチャット機能、さらにスケジュール管理などにはプラットフォーム、専用のアプリなどの開発が求められる。「解禁」後、遠隔診療事業には複数のベンチャー企業が参入し、独自のサービスを提供している。

その1つ、メディプラットが運営するのが、「first call」。

「遠隔診療での展開も見据えながら、現在はオンラインでの医療相談を行っている」と語るのは、メディプラット代表の林光洋氏だ。

「first callには、複数科目の医師が40名ほど登録しています。勤務医や開業医と契約し、患者とマッチングして医療相談を行っています。相談は15分のテレビ電話と、初回無料のテキスト相談。最近は1日数百件の相談があり、まずは体験者を増やすことを優先しながら、利用料金と医師への報酬というビジネス面も含め、最適な方法を模索しています」(林氏)

メディプラットで働く眼科医の眞鍋歩氏は、もともと大学病院勤務だったが、今年2月、都内のクリニックで遠隔診療の実証実験をはじめた。

「通院に至る前に相談ができる医療相談をしています。相談を受けるなかで患者さんがいろいろな悩みを抱えていることがわかってきました。テキストでは口頭よりも詳細な説明ができますし、テレビ相談は15分あるので、丁寧に会話できる側面もあります。病院では、待ち時間が長いのに診察の時間が数分だけという経験をされる方も多い。オンラインのほうがむしろ、きちんと患者さんと向き合った診療ができる面があると実感しています」