病気をしたときは担当医とできるだけいい関係で治療を進めたいもの。とはいえ、診察室に入るとつい身構えてしまいがち。患者としてのコミュニケーションのコツを伝授しよう。

「全部お任せします」「Webで調べました」

私にも田舎に母がいる。家に一人、いわば独居老人として生活している。帰省したら母の通院に付き添うが、医者や病院との付き合い方は難しい。親の世代である70代、80代になる頃には、それまでとは異なる医療が必要になるからだ。患者として、医師として医療に携わっている経験からお伝えしたい。

親が高齢になってきたときに考えたいのは医者や病院そのものとの向き合い方だ。よく目にするのは、長い移動時間をかけて大病院へ行き、「2時間待ちの3分診療」を受けているケース。ただでさえ体力に不安が出てくる年齢で、大病院だと安心だからという理由での通院はお勧めできない。

では通院はどこでどうするのか。一番は大小問わず地域の病院に「かかりつけ医」を持つことだ。近場だから高血圧や不整脈の治療など、日々の身体の変化を継続的に診てもらえる。かかりつけ医の専門外である治療が必要になれば、かかりつけ医を通して、専門の医者を紹介してもらえばいい。複数の科にかかっても、治療の重複や危ない薬の飲み合わせなども防ぐことができる。

私が医師として親にアドバイスしているのは、医師へ「どういう暮らしをしているのか、したいのか」を伝えることだ。暮らしの中で何をしている時間が最優先なのか。いわば、「生き方」の判断基準といえるものだ。

患者は誰しも、今、自分に起きている健康の不具合をゼロにしてほしいと望んでいる。しかし、現実には、ほとんどの場合、医療は患者が理想とするリセットを叶えてくれることはない。がんや糖尿病などの病気に関してはなおさらで、もちろん医療にできることはあるが、限界もまたある。そうした限界の中で、自分が望んでいることを可能な限り具体的に医師へ伝える必要があるのだ。

望む生き方を医師と話し合うことは、簡単ではない。患者も医療ができる限界について知りながら、希望を伝えていかなければならないからだ。わかりやすい説明の仕方としては、「いつの時点で」「どこで」「誰と」「どのようになりたいと望んでいるか」を想像し、医者に伝えるとよいだろう。