パレスチナ問題には目をつむるように
こうした近年の両国の接近を背景として、今年4月にイスラエルは中国人労働者6000人の受け入れについて中国側の同意を得ることになった。従来、中国はパレスチナ問題においてイスラエルに対して批判的な立場で、パレスチナ自治区のユダヤ人入植地拡大に中国人労働者が利用されることを警戒して同様の決定をしばしば先送りしてきたのだが、イスラエルとの関係強化を通じて事実上は問題に目をつむるようになった形だ。
中国から見たイスラエルは、中国人がやや苦手とする「ゼロからイチ」、つまり無から有を生み出す革新的なイノベーションを売ってくれる、非常にありがたい相手。一方でイスラエルにとっても、地理的に遠く離れた中国は国防上の脅威になる相手ではないため何を売っても安心であり、とにかくカネをたくさん支払ってくれる上客として歓迎されている。
今年11月のトランプ大統領訪中を通じて、中国側はトランプ氏に習近平政権が主張する新型大国間関係(米中G2)の枠組みを認識させることに事実上成功した。従来、アメリカと特別な関係を持ち続けてきたイスラエルに対しても、経済を軸に非常に大きなプレゼンスを発揮しつつある。
イノベーションによって変わる世界と、中国によって変わる世界。ふたつの大きな変化のキーとなるイスラエルの動向は、今後も極めて重要だ。
ルポライター、多摩大学経営情報学部非常勤講師
1982年滋賀県生まれ。立命館大学文学部卒業後、広島大学大学院文学研究科修了。在学中、中国広東省の深セン大学に交換留学。一般企業勤務を経た後、著述業に。アジア、特に中華圏の社会・政治・文化事情について、雑誌記事や書籍の執筆を行っている。近著に鴻海の創業者・郭台銘(テリー・ゴウ)の評伝『野心 郭台銘伝』(プレジデント社)がある。