「一帯一路」で観光客も急増中
中国とイスラエルの両国に国交が結ばれたのは1992年と、比較的遅い。かつて中国は反帝国主義の立場からアラブ各国に肩入れしてきたこともあり、従来の両国の関係はかなり希薄であった。だが、疎遠な関係が一変したのが、習近平政権が一帯一路政策(地政学的観点からユーラシアへの経済進出を図る中国の政策)を構想しはじめた2014年以降だ。
同年4月8日、習近平は訪中したイスラエルのシモン・ペレス大統領(当時。昨年9月死去)と人民大会堂で会談。ここから一気に、中国からイスラエルに向かう観光客の増加と、投資額や貿易額の急激な増大がはじまる。従来ほとんどいなかった観光客は毎年前年比数十%増の伸びを見せて、将来3年以内に年間20万人規模に達する見込み。2016年の投資額は165億ドル、貿易額も113.6億ドルまで増えている。
だが、懸念されるのは経済のみならず政治的な接近だ。上記の習-ペレス会談の際も、習近平は「中華民族とユダヤ民族は特に第二次大戦中、ともにファシズムと軍国主義に反対し、互いに助け合って深い友情を結んだ」と歴史問題における共通点を主張している。
「ユダヤ人が中国において迫害を受けたことがない」
「イスラエルは中国に感謝している。ひとつは中国が第2次大戦期にユダヤ難民を受け入れてくれたから、ふたつにはユダヤ人が中国において迫害を受けたことがないからだ」
対してそう発言するのは、2012年から2016年まで駐中国大使を務め、両国の蜜月時代の成立に大いに一役買ったマタン・ヴィルナイである。彼は元イスラエル国防軍軍人で政界転身後にも国防畑を歩んできた大物政治家だ。
マタンは大使時代、習政権の一帯一路政策に積極的に支持を表明したり、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に創設メンバー国として参加するにあたって大いに協力したりと、非常に中国と親しい動きを見せてきた。
マタンは今年11月に初の著書を中国国内で刊行(なお、ヘブライ語や英語版はなく中国語翻訳版のみの刊行)し、それが中国の体制側メディアでも大々的に報じられていることから、中国国家にとっても非常に都合のいい親中派外国人としてみなされているようだ。
ほかにも今年10月の共産党大会の前には、イスラエルの著名投資家アミール・ギャル・オアが中国国際放送局(CRI)のプロパガンダ映像に登場して、中国政府を賛美。また11月には中国とイスラエルの合作のもとで制作された『メイド・イン・チャイナ』という全5回のドキュメンタリー映像が、イスラエル放送局(IBA)を通じて同国内で全国放送されている。